えいがうるふ

春原さんのうたのえいがうるふのレビュー・感想・評価

春原さんのうた(2021年製作の映画)
4.7
あまりに淡々とした作風なので人によっては途中で寝落ちするかも知れないが、私は終始画面に惹きつけられ全く退屈しなかった。多分、この先何度も繰り返し観てしまう気がする、そしてその度に感想が変わりそうな不思議な作品。

「転居先不明の判を見つめつつ春原さんの吹くリコーダー」

歌人東直子のこの一首の短歌からインスパイアされた映画というだけあって、作品全体は確かにある確固たる世界観に沿って非常に繊細に構築されてはいるのだが、決して全てを物語って説明してはくれない。
韻文的映画、という表現が正しいのか分からないが、とても新鮮だった。

まさに短歌と同じように直接映像やセリフで表現するものを極端に削ぎ落としているので、行間を読むように想像力を駆使して自分なりにその間を埋める必要があるが、そのゆるさにイライラするどころか妙に心地よく感じて「ああ、このままずっと観ていたい・・」と思えたのが自分でも意外だった。
例えて言うなら、全く馴染みのないハーブティーを丁寧に淹れて飲んでみたら思いがけず自分好みだったような、そんなうれしい時間だった。

主演の荒木知佳さんは今作で初めてちゃんと認知した役者さんだと思うが、独特の味のある方。
人の顔の印象は顔の上半分下半分でだいぶ違うという話を聞いたことがあるが、実際マスクのあるなしでこれほど印象変わるものかと興味深かった。