otomisan

リバー・ランズ・スルー・イットのotomisanのレビュー・感想・評価

4.2
 兄は弟の骨を拾ってやりに戻って来たのかもしれない。それは、おおむかし、釣り師になるといった弟に、そんな職業はないと笑った事への落とし前のようでもある。それならボクサーになると弟は返したが、そんな笑いばなしでも兄が背中を押していれば弟はその嘘を真に受けてくれたろうか。

 強運があるから平気で命も投げ出せる。それを川で発揮していれば良かったろうが、人と交わっては常勝とは限らない。相手にも運があってその張り合いで博奕になるんだが、そうは受け取れないためにいつか命運が尽きるのを認められない。
 兄の再度の離郷が近づくある日、風変わりなジェシーへの恋が再点火した兄に幸運が舞い込んだと弟は勘違いしたかもしれない。それは何を好んでふたりが選択するかであって運に恋が運ばれて行き来するものではない。なのに、それにあやかるつもりで最期の博奕を張ったのか?
 いやそれは単に潮時だろう。あの晩、事を拗らせて窮地に至ってもそれを切り抜ける。これはまた幸運で、翌朝約束通り親子3人で釣りに出掛けるために顔を見せる。あの安堵感で我々は全て忘れてしまう。一日一心にマスを釣る中で相変わらず端正な釣りをする父、あらためてこの川がこころの一部と分かる兄、そして弟は川と一つになって生きて、まだそこでは死なない運に満ちている。だが、もしそのとき死ねたならどうだろう。

 川では死なない運を賭場で使い果たして街頭で死ぬ弟が兄に骨を拾ってくれと望んだろう。あんな死を親には見せられまいから。しかし、いつそんな運を悟ってしまったのか、そうと悟らなければゆっくり時間をかけて水の中では生きられない自分を抑えて成長できただろう、だがそれは嘘だ。死なない運を万能と決めつけた男の、ならば馬鹿で行こうと駆け抜けた一生の余韻は風が吹き止んだあとの静かさに似ている。