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編笠権八の東京キネマのレビュー・感想・評価

編笠権八(1956年製作の映画)
3.5
原作は川口松太郎、監督は三隅研次。雷さま25歳の作品。

とにかく雷さまが若い。線が細いし、台詞回しも朴訥。後の眠狂四郎のスタイルは完全に出来上がっているが、雷さま独特の言葉の粘り強さがないもんだからどうも不安定に見える。

眠狂四郎はニヒルでちょっと卑怯なキャラクターだけれど、こちらは正攻法。真っすぐで卑怯なことが大嫌い。従って、作品も真っ当すぎて物足りず。

全編65分という短さということもあるかも知れないが、プロットよりサブ・キャラクターのイベントが豊富なのでそれなりには見れるドラマには仕上がってはいるけれどちと消化不良。興味が持続する理由は、脚本というより、この時代の日本人の所作や口舌が面白いからなのだろう。逆に言えば、今居なくなっている日本人を見て感動するということか。

三隅研次は毎度のことながら、美術は完璧。飾り障子や文台から小物まで美しいし、ロケーション、セットとも作り込みが見事。エンドの東山南禅寺ロケも素晴らしい。

エンドで主人公の権八郎曰く“恋のために死ぬのだ”には思わず笑ってしまったが、これを雷さまが言うと全く厭味がない。ここらへんが雷さまの凄いところなのだ。
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