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戦場のピアニストのtakのレビュー・感想・評価

戦場のピアニスト(2002年製作の映画)
3.9
 ホロコーストものにもいろんな映画があったが、これはその迫害と戦火の中を生き抜いたある男の現実。ロマン・ポランスキー監督は実際にゲットーで生活していた経験がある。それだけに街角に転がる死体の様子、路上にこぼれた食べ物をすする男、その中の人間模様といったゲットーの日常が冷静な目で描かれている。

 淡々としたその語り口に、映画としての感動が薄いと感じる人もいるだろう。実話の映画化だとか、ポランスキーにホロコーストの実体験がある、といった映画以外の面で感動させる映画とも言える。だがクライマックスで出てくる廃墟の町に一人たたずむ場面の圧倒的なイメージは、多くを声高に語らずとも戦争の空しさを物語っているではないか。映画の中でも最も視覚に残る場面だった。それって映画にしかできない表現ではなかろうか。

 著名なピアニストだったから迫害の渦中から離れた場所で、人を頼って生き延びられた。他の人ならばこうはいかない。確かにそうだ。だが、生きていくことこそが困難な中で生き延びたことはやはりすごいと思う。生きることの尊さ、それを感じて欲しいな。この映画を物足りないと感じた人は、何か生き延びることへの理由とか目標めいたものを、ハッキリ描いて欲しかったんじゃないかな。「愛する人のために」だの「生き延びてまた僕のピアノを聴かせたい」といった使命感や執着めいたもの。でも生きるってそれ以上に大事なこと。そこまで演出してたら、きっとこの映画は嘘くさい話になっていただろう。

 僕が唯一気に入らないのは邦題。「戦場」って、敵味方相対して銃弾ドンパチ飛び交う激戦地をイメージさせるものではない?。むしろワルシャワを出ることのなかった主人公にちなんで、例えば「ワルソーのピアニスト」なんてどうだろう?。フランスの歌手、故ジルベール・ベコーの名曲と同じタイトル。そう言えばこの歌にも反戦の思いが込められている。
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