耶馬英彦

THE MOLE(ザ・モール)の耶馬英彦のレビュー・感想・評価

THE MOLE(ザ・モール)(2020年製作の映画)
3.5
 北朝鮮はアホな国を装ってはいるが、独立を宣言した1948年からすでに73年が経過している。ニュースで見るような一方的な国が73年も国としての体裁を保ち続けられる筈がない。朝鮮中央テレビはプロパガンダ放送だから、見せたいものだけを見せたいように放送する。アナウンサーがこれでもかというほど力んで喋る報道の何層も奥に、北朝鮮の真実は覆い隠されている。

 本作品は北朝鮮のしたたかな裏ビジネスを明らかにする。商品は兵器と覚醒剤だ。映し出された書類には英語で methamphetamine と書かれていた。メタンフェタミンは日本でも覚醒剤として取り締まる中心的な薬物である。
 商談はシビアだ。かつての日本の高度成長期のような接待攻勢をしたり、交渉の場所を地政学的見地で選んだりしている。女と食い物で誘い、一方で秘密の漏洩を警戒する。潜り込んだジェームズとウルリクが北朝鮮の警戒を解くのに10年という長い年月を要した。それほど北朝鮮政府の警戒は厳しいわけだ。
 バレてしまったらという恐ろしさは、並のホラーの比ではない。北朝鮮国内に拉致されて拷問を受けるのは間違いない。にこやかな商談の場は、MOLE (もぐら=スパイ)の側に立つと、薄氷の上を歩くようなものだった。

 武器については朝鮮中央テレビでロケットの打ち上げを何度も放送している。外国に対するデモンストレーションであると同時に、武器の宣伝である。最近では列車から発射するミサイルを宣伝していた。あれを見てミサイルを買う国もいるだろうと思う。
 本作品で映された書類を見ると、ミサイルは1機で3億円程度の価格である。戦争ではそれをバンバン撃つ訳で、百発敲てば300億円だ。どう考えても人殺しにそんな大金を費やすのはバカバカしいことこの上ない。しかし売る側にしてみれば、楽に儲かる商売である。北朝鮮がミサイル1機を発射するのに100万ドルの費用がかかるという。1億円ちょっとだ。それを3億円で売るのだから、笑いが止まらないだろう。北朝鮮はやり手の商売人なのだ。

 日本のニュースでは予算の具体的な数字は滅多に報じないが、いちいち報じたほうがいいと思う。軍事予算では、自衛官の給与を階級別に基本給から各種手当、そして平均賃金まできちんと報じるべきだ。公務員なのだから給与も公開するのが当然である。それに各種兵器の価格と総額。本作品では兵器の価格一覧表が映し出されていた。北朝鮮の売値である。

 日本の軍事予算5兆円といっても中身がわからなければ、一般国民には想像がつかない。情報を隠蔽している点では日本も北朝鮮も同じだ。そして報じる筈のメディアも腰が引けているのか、政府の発表だけを報じる。一方、民間企業は毎年決算をして税務署に報告しなければならない。棚卸資産はもちろんのこと、固定資産や償却資産についても報告する。
 国も民間企業と同じように、毎年決算をしている。民間が資産の一覧を報告するように、軍も兵器の一覧と価格、減価償却費を報告すべきだ。財務省には国の貸借対照表と損益計算書を毎年公開する義務を課すのがいい。
 民間企業の経理担当者は決算の数字を見ることができる。もし国の決算が公開されると、予算がどれほど丼勘定で、どれほど無駄なことに使われているかが分かることになるだろう。自民党政調会長の高市早苗が主張する軍事予算倍増なんて論外である。
耶馬英彦

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