あっきー

THE MOLE(ザ・モール)のあっきーのレビュー・感想・評価

THE MOLE(ザ・モール)(2020年製作の映画)
4.5
元料理人という経歴を持つ一般人が、北朝鮮の懐深く潜入し武器密輸の闇をカメラにおさめる。どんなスパイ映画も敵わない、リアリティと大胆さに驚かされるドキュメンタリー作品。これが最高に面白い。

観ていて、「これはドキュメンタリーなんだよね?」と何度も自分に問いかける。目の前の出来事が逆に現実だと思えないくらいにあまりに生々しく、ニュースでは絶対に暴けないような闇の世界をいとも簡単にカメラにおさめているように見えるからだ。報道で聞いたり読んだりするのとは違い、本来は表に出ることのないような北朝鮮の廃墟ビル地下の接待ルーム、武器密輸の契約書にサインを交わす瞬間、アフリカに武器と覚醒剤の工場を建てるために1000人の住民を退去させると軽々言ってのける会話など、カメラで克明に記録された映像から目が離せない。これ、見ていいのかと思うような場面の連続。

政府や公的機関のバックアップもなく、危険な潜入に挑んだウルリクの勇気には感服する。元CIAから即席のスパイ講座を受けたとはいえ、彼は一般人である。だからこそスパイスキル以上に、彼本来の相手の懐に入り込む人柄が成功の要因になったのかもしれない。10年に及ぶスパイ活動が終わりを迎える瞬間の場面は、なんとも表現し難い複雑な気持ちになった。

題材の魅力は大きいが、映画としての語りのうまさも見逃せない。監督のマッツ・ブリュガーの卓越した手腕がうかがえる。彼自身のナレーションと、潜入した2人の人物にデブリーファーと呼ばれる聞き役がインタビューをしながら10年を振り返るという構成が見事。

この映画と比べたら、どんなフィクション映画のスリルや緊張感も敵わないだろう。我々観客は安全な映画館のシートに座りながら、この世界における最大のスリルと興奮を追体験できる。ものすごい作品だった。
あっきー

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