とらキチ

THE MOLE(ザ・モール)のとらキチのレビュー・感想・評価

THE MOLE(ザ・モール)(2020年製作の映画)
5.0
コレは本当にモノスゴイ!ウソのようなホントの話し。
実は、NHKBS1の「BS世界のドキュメンタリー」で既に放送されていた作品。
原題の「THE MOLE」はそのままだが「潜入10年 北朝鮮・武器ビジネスの闇」というタイトルで放送された。何気なく録画して見ていたら、その内容のヤバさに度肝を抜かれ、ある坊主頭の人物の登場で「アッ!」となった。
その人物とは今作の監督マッツ・ブリュガー。
彼の前作「誰がハマーショルドを殺したか」コレもモノスゴイ内容の作品だった。そちらでは監督自らが取材に同行していて、ドキュメンタリー作品らしからぬトリッキーな方法を使った語り口で作中語られていた。そうでもしなければ、俄かに事実とは信じられないような内容だったから。しかし今作では、比較的オーソドックスな正統派なやり方で語られる。それは“ウルリク・ラーセン”という、監督の代わりに全てを行ってくれる絶好の素材がいたからだろう。
10年間潜り続けた“モグラ”の軌跡。
国際犯罪を国家事業として行う、北朝鮮の無茶苦茶さ、デタラメさを克明に描く。国際犯罪とは違法な武器及び覚醒剤メタフェタミンの製造や闇取引の事。だって、その買うことの出来る武器の中身と言ったら、通常兵器はもちろん電子戦にも対応するし、ドローン対策に果てはスカッドミサイルまで何でも御座れ!オマケにそのお値段までわかっちゃうという、このお得感!(笑)そして今作ではウルリクを通じて北朝鮮に架空の取引を持ちかけ、その一部始終を記録している。
録画を含めこれで通算4度目の鑑賞になるので、クセがスゴい人物の登場のたびについニヤニヤしてしまった。もうひとりの“モグラ”Mr.ジェームズの風貌の胡散臭さ、先走る様子にはヒヤヒヤさせられる。1番印象に残ったのが、何故か北朝鮮側との交渉の際に同席してくる、表情を一切変えない“Stone Face”の男。取引上の私的な不正が無いかの監視人なんだろうけど、その変わらない表情の奥には、とても冷たいモノを感じる。大きな声では言えないが、きっと何人か、その手にかけてきた、もしくはその指示をしてきたのだろうと思われる。こんな人物達の存在が、より真実味を増している。
それにしても、こんな事が実際に起きているなんて、世の中どうかしている。私は今作を見てから北朝鮮によるミサイル発射のニュースのたびに、コレは「西側への挑発ではなく、顧客へのデモンストレーションなのだ」と思うようになった。特に最近の巡航ミサイルは間違いなくそう。登場人物ほとんどがアタマオカシクて、唯一まともだったと言えるのは最後に10年間の行動を告白される“ウルリク・ラーセン”の奥さんだけ!と言える状況。
もうねぇ、下手なスパイものの遥か上をいっちゃっているんですよ、リアルが。スパイものが好きな方には、ぜひどうにかしてご覧になっていただきたい。
ジャケ写に「この男、ヤバすぎる」って書いてあるけど、1番ヤバいのは間違いなくマッツ・ブリュガー。
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