ぺん

THE MOLE(ザ・モール)のぺんのレビュー・感想・評価

THE MOLE(ザ・モール)(2020年製作の映画)
4.6
デンマークに暮らす普通の元料理人が北朝鮮へスパイとして潜り込む。しかも何度も10年も!
どうなってんの…明らかに普通じゃない。家族を、周囲を命懸けで騙し続ける生活。
カメラや盗聴器を持ち、どこへでも潜入し、バレれば死刑確実な状況で北朝鮮人たちを欺き交渉をする。
諜報員でもない庶民に耐えられる訳ないと思ってしまうんだけど…何がウルリクをそこまで駆り立てたのか。
もちろんこれを撮った監督もかなりヤバい。彼らを突き動かすのは正義感という感じでもない。
なんにせよ、彼らのお陰でぶっ飛んだドキュメンタリーとしてこれを観ている。

害のなさそうな立ち振る舞いのウルリク、どう見てもカタギじゃなくて修羅場をくぐり抜けてきたジェームズの凸凹コンビの活躍。
緊張感は途切れないのに北朝鮮に潜入するくだりは妙な間抜けさもある。実話なのにサスペンスコメディだわ。

北朝鮮支援団体KFAは初めて知った。会長であるスペイン貴族のアレハンドロも…何故そこまで北朝鮮にベッタリなのか。
自国の生活では満たされないが、極東の小国でなら成功者として尊敬されるからだろうか。めちゃくちゃ稼げるし。
演技でもこんな誇大妄想のオッサンと真面目に向き合いたくない。
その秘密や悪行を暴こうとするウルリクたちにも、遥か遠い独裁国家へ憧憬のような感情があったのかもしれない。

しかし、このKFAの幹部として活躍することになったウルリクもテレビインタビューされてるし、本当に家族や周囲にバレないもんなの?
他国の政府をも欺いて武器商人のフリまでしてしまうし、敵も味方もみんな大規模な詐欺をやっている。
デンマーク政府ではなくとも、本当に別の力は関わってなかったのかな?
肝心な部分を見せてくれてはいない気がする。命に関わるだろうから止むを得ない事情もあるだろうけど。
今作の内容は北朝鮮にも公開しているため、より警戒を強めているだろうか。北の登場人物たちもまんまと騙されていたことが公然の秘密になった。きっと無事では済まない。
元MI5エージェントも話していたように、あんな強烈な日々を過ごしてきたウルリクたちも普通の生活に戻れるんだろうか。奥様はただ気の毒…

「ロシア経由なら世界のどこへでも行ける」みたいなセリフが今観ると皮肉に聞こえる。
今日も北からミサイルが発射され、情勢は落ち着く暇もない。
絶えず武器や麻薬で世界の金が動いているんだろうな。
北朝鮮の人民やアメリカの留学生、ウガンダの島民のように、簡単に人生を変えられてしまう人々がそこにいるのがもどかしい。
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