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The Son/息子のchiのレビュー・感想・評価

The Son/息子(2022年製作の映画)
4.1
僕には人生が重すぎる。耐えられないんだ。

前情報はこの笑顔のポスターのみで見に行ったので、想像の100倍重くて苦しくて辛かったです。今年見た映画では一番きつかったです。何がきついかって、誰にでも、どこの家庭でも起こりうる話なので他人事に出来ないことです。自分がニコラスだったら、父の立場だったら、母の立場だったら、父の後妻の立場だったら、どうしますか。

ニコラスの苦しみに本当に心が痛む。学校に行かない理由を「何が問題なんだ」と聞いた父にニコラスは「人生だよ。僕の人生が問題なんだ」と言った。そして母の元に帰ったニコラスは母に「僕は普通の人みたいにできない。僕には人生が重すぎるんだ。耐えられないんだ」と吐露する。
人生とは本当に難しい。生きるとは本当に難しいことだ。生きる人間誰もが感じていることだと思う。彼のように自傷行為、自殺衝動まで行ってしまうと、知識のない私には本当にどうしたらいいのかわからない。彼は住む家も変えたし学校も変えて、環境を変えてやり直そうとしたのは偉かったと思う。それでも生きることが苦しいと解決しないんだもんなぁ……

ヒュー・ジャックマン演じる父への批判もあるとは思いますが、私は彼はできる全てをしたと思いました。もちろん妻子ある身で不倫をして、妻子を捨てて行ったのは悪いですが、息子が学校に行っていないことを知ってからは彼はできる限りのことをしたと思います。もちろん自己中心的で言ってはいけないことも言ってしまった。でも、息子を思って必死だった。人間は完璧ではないのです。親だからといって完璧ではないのです。
子どもが苦しんでいたら、親も苦しいのです。何とかして救い出してあげたいと思うでしょう。それが叶わなかった親の苦しみも、いつか救われるでしょうか。
子育てというのは一人の人間を育てることですから、とんでもないことです。思い通りになんていきません。ニコラスの幼少期の様子が描かれますが、ずっとこの子どものままでいてくれたらなんて思ってしまいました。

鬱病を患うことなんて現代ではもはや珍しくもない。私たちはどうしたらいいのか、どうすべきなのか、何ができるのか。全員に当てはまる正解はないでしょうし、こうすべきというのが分かっていてもいざ当事者になったらできなくなることもあるでしょう。精神病院を退院させるか否かのところでも、本来親は退院させずに医師に任せるべきなのはわかるが、実の息子にあんな風に泣きつかれたら見捨てて行くことができるか?と言われたら簡単には答えられません。医師は「経験上こうすべき」と言いましたが、息子はこれまで医師が見てきた患者とは別の人間なのだから経験が当てはまるとは限らない。医師に任せ治療を受けさせるべきというのは分かっていても、もしかしたらできないかもしれないなと思いました。

昨年見た「ニトラム」を思い出す。生きるのが難しい人は、どう生きればいいのだろう。彼らに何ができるのだろう。
エンドロール後に字幕は無しでしたが、命の電話的な案内が英語で出ていました。これは映画を見てきて初めての経験でした。今、悩みや苦しみの中にいる人が少しでも救われますように。
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