イルーナ

ミラベルと魔法だらけの家のイルーナのネタバレレビュー・内容・結末

ミラベルと魔法だらけの家(2021年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

ディズニーと言えば、昔から『ラテンアメリカの旅』や『三人の騎士』など中南米をテーマにした作品を手掛けていました。
元々中南米の文化にはそそられるものがあるのですが、今回はそれ以上にド直球で来るものがありました。
本作の舞台はコロンビアで、一族の物語。昔南米文学にハマっていた身として、真っ先に『百年の孤独』を思い出しました。
そして蓋を開けると……初っ端からもうこれ『ディズニー版百年の孤独』だよね?!という展開に衝撃を受けました。

住んでいた町から追われ、人里離れた場所に魔法の町「エンカント」を創設したマドリガル一家。
この時点で『百年の孤独』のブエンディア一族とマコンドほぼそのまんま。
違うのは逃れる最中に夫の犠牲と引き換えに、形見の蝋燭が魔法の源となったこと。
一族と町は魔法の力で栄えたが、孫の代のミラベルただ一人が、魔法の「ギフト」を授かることができなかった……

周りが当たり前のように才能を持っているのに、自分一人だけ持っていない。周囲の目も自然と冷たくなる。
特にこれが家庭内で起きると本当に逃げ場がないから、息苦しいなんてものじゃない。
そんな不遇な境遇でも、家族を誇りに思いひたすら尽くすミラベルの姿が健気すぎる。よく腐らなかったね……
それでも、アントニオが魔法の「ギフト」を授かる時ずっと複雑そうな表情だったのが痛々しい。
「ギフト」の件がトラウマになっているから、自分みたいにならなかったのは嬉しいけど、また自分だけ仲間外れになってしまうという板挟み。
しかも家族写真に彼女だけ写ってないのに誰も気づかないあたりが闇深い。

しかし才能に恵まれた姉二人も、周囲からの期待やプレッシャーを背負い、内心疲れ切っていた。
ペパおばさんの天候操作は感情次第でコントロール困難なので、むしろ魔法に振り回されてない……?と心配になるし、ドロレスの地獄耳も聞きたくない話が常時耳に入る上、周りから疎まれてもおかしくない能力でメンタルきつそうだ。
(ちなみにドロレス、同い年のイサベラの影に隠れた存在だったらしい。それを考えるとあの行動に出たのも納得だし、さらにその後イサベラにとってもファインプレーだったことが分かるから見事な脚本)
さらにミラベル以外にも、マドリガル家には闇を背負わされた存在がいました。
創始者アルマおばあちゃんの三つ子の一人、未来予知の力を持つブルーノ。不吉な予言をすることから存在そのものがタブー扱いされていて、人知れず引きこもっている。
家族団らんの象徴たる食卓の裏で、ネズミたちと息をひそめて暮らしている姿が物悲しい。
ミラベルといい、サンドバッグ役がいないと成り立たない時点でもうこの家族は機能不全を起こしているよ……
(にしても『あの夏のルカ』といい、半年もしない間にまたブルーノが不吉な存在に……ディズニー・ピクサーはブルーノに何の恨みが??)
家長であるアルマおばあちゃんは魔法の力を家を護ったり、町の皆のために使う責任感ある人物ですが、それ故に完璧主義に陥り、家族全体を疲弊させていた。
一見円満に見える家族のほころびを表すように、魔法の家「カシータ」に少しずつ崩壊の足音が迫りくる……
他の家族は「ギフト」ありきでしか物事を見られなかったため、却って枷にはまることになっていた。
逆にそれに恵まれなかったからこそミラベルは物事の本質を見抜き、他者の心を開かせる才能があった。
特別でないことが、かえって特別になる。
「平凡でも大丈夫!みんな特別!生きてるだけでえらい!」的なテーマはやはり最近のトレンドですね。

出だしが『百年の孤独』を連想したと書きましたが、他にも色々当てはまる部分がある。
一族や町を守ろうとして枷にはめてしまったアルマおばあちゃんはまんまウルスラ。極端な行動ばかり取って自分の思い通りに動かない子供たちを次々に見限るが、長い年月が経って子供たちの本質に気づき、そのことを後悔する……という場面があったけど、アルマも一歩間違ったらウルスラみたいになっていたかもしれない。
予言の力を持ち、人知れず引きこもっていたブルーノはメルキアデスとレベーカか。
ミラベルはやはり忌み子ということで、豚のしっぽに当たるのでしょうか。ヴィジョンの描き方もそんな感じだったし。それと、予言の解読の部分はアウレリャノ・バビロニアもあるか。
マコンドはタブーが破られたことにより羊皮紙に記された百年分の歴史を解放しながら終わりを迎えますが、「カシータ」も枷から解放されたことにより倒壊してしまう。

しかしもちろん違う点もあります。
その「カシータ」は町民全員で建て直される。おばあちゃんの危惧とは裏腹に、町民は最後まで町とマドリガル一家を見捨てなかった。
その仕上げにミラベルがドアノブをつけ、扉を開けるのは、ようやく彼女が真の意味で家族に受け入れられたことの象徴です。
ミラベルにギフトがなかったの、家族の置かれていた状態を考えると、ある種の安全装置の役目を担っていたからなんじゃないかと思います。

物語の舞台はほぼ家の中というミニマムさですが、意思を持ち、部屋の中にジャングルや遺跡など異空間が広がっている「カシータ」は本当に魅力的。
色んな部屋をもっと見てみたいです。
南米らしいカラフルな世界観と音楽もまた素敵。久々にサントラが欲しくなりました。
そして何より、教養を身に着けているとこんなにも作品が魅力的に見えるという驚きと楽しさ。
『百年の孤独』、久々に読み直してみよう。

追記

登場人物の中ではカミロが異様に高い人気ですが、実際は「え、出番たったこれだけなの⁈」
『秘密のブルーノ』での怪演以外、モブに毛が生えた程度の扱いでびっくりしたよ……
実際の出番は、わずか6分17秒しかなかったとのこと。
その割に有志のwikiなどを見たらやたら情報が充実していることを考えると、出番が大幅に削られて実質スピンオフ要員になっていたのが、予想以上に人気が出たキャラなんだろうか?

そして先日、監督のツイートで明かされましたが、「実は普段の姿さえギフトで変えていたため、終盤魔法の力が失われて本来の姿に戻った時、誰も彼だと認識できなかった」というエピソードが予定されていたとのこと。
他の家族がギフトの義務感やプレッシャーを抱える中で唯一溌剌としていたキャラだけに、これには複雑な思いをするファンも多そうです。
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