ずどこんちょ

沈黙のパレードのずどこんちょのレビュー・感想・評価

沈黙のパレード(2022年製作の映画)
3.6
湯川先生、教授になりました。

「教授になったくせに血も涙もない」と内海刑事に言われた湯川先生。教授になったって警察の捜査に興味があって協力しているわけじゃないし、かき氷を黙々と食べ続けていいじゃない。相変わらず先生はブレません。
そういえば、「子供は嫌いじゃなかったの?」と聞かれた時、「苦手なだけだ。」と答えていました。
あれ?昔は決まって、「苦手なんじゃない。嫌いなんだ。」と答えていたような……これってつまり、『真夏の方程式』での一件を経て少し子供に慣れたというか、見直してますよね。

湯川先生が、真実を明らかにして悲劇を招いた"あの時"のようなことを繰り返したくないと言っていた"あの時"も、明言はされていませんが『容疑者Xの献身』での天才・石神との一件を言ってそうな気がしますし、湯川先生も時の経過と共に考え方や価値観が変わっていることを感じさせます。

さて、今回の事件では、いつものように物理学の天才として捜査に協力する立場とは少し違います。
かつて少女を殺害した疑いで逮捕され、完全黙秘を貫いて無罪となった容疑者が、再び夢溢れる女子高生を殺害した疑いで逮捕されました。警察の取り調べで一切語らず、闇に葬られた真実。被害者遺族はやりきれません。当時事件を担当した草薙刑事にとっても今回の容疑者は因縁の男でした。
女子高生の実家で定食屋の「なみきや」が湯川先生の行きつけの店なのです。被害者の家族や、彼女を大好きだった地元の人々が事件に関与していき、湯川も事件の真相を突き止めるため動き出します。

なみきや周辺の人々の配役も良かったです。
原作を先に読んだ身としては発表された時、特に「並木屋」主人の祐太郎あたりは少々イメージと違うなぁと感じましたが、飯尾さんもすごく味のある芝居をされてました。個人的には恋人の高垣を演じた岡山天音が原作のイメージよりも好印象でした。

とは言え、今回は主に草薙刑事の苦悩に焦点が当てられていると言えるでしょう。
もしも当時、自分が取り調べで彼を落としていれば新たな被害者は生まれなかったと悔やみ続けています。
なみきや周辺の関係者を取り調べる時、彼らから警察の失態を責められ俯いてしまう草薙刑事。いつものクールでかっこいい百戦錬磨の彼の姿はどこへやら。無精髭で憔悴しきっていて、目も当てられません。
あまりにも思い入れが強いため、側から見るとこれ以上捜査に加わるべきではないと感じるのですが、親友・湯川は最も苦しんでいる草薙刑事にこそ、この事件を終わらせるべきだと突き付けるのです。
さすが親友。苦難を乗り越えるために逃げや甘えは、本当の意味で当人の問題解決にはならないことを知っているのです。

その一方で、湯川先生は事件を主体的に解決していくのではなく、あくまで捜査協力者として後方支援やアドバイザーとして立ち回ります。
草薙刑事への陰で支えとなる思いやりや、並木屋周辺の人々との社交的な交流を見ても、頭脳明晰で物理オタクであっても、人間関係の絶妙な距離感が分かっているところが憧れます。
並木屋次女が湯川先生に懐いていて、湯川の口癖を真似して「実に面白ーーい!」と茶化されているのも微笑ましかったです。

今回、湯川先生は帝都大学から外に出て外部の研究所で出張しているため、助手の栗林さんは顔を見せませんでしたが、「ガリレオ」シリーズに欠かせないアクセントだった栗林さんの姿も、ぜひ久しぶりに見たかったです。