半変人のお調子者

沈黙のパレードの半変人のお調子者のネタバレレビュー・内容・結末

沈黙のパレード(2022年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

前二作とは違い、原作を読破してから鑑賞。
故に結構気になる点が見つかってしまった。
元々原作がめちゃくちゃ長いし、ドラマ版の続編でもあるから大幅な省略・変更は仕方ないとはいえ、それでいいのかなと思う所があった。

以下、気になった省略・変更を箇条書き

・湯川先生への捜査協力の依頼を草薙刑事ではなく、内海刑事がやる。これはドラマ版からの繋がりだから仕方ないとはいえ、やはり気になる。
そもそも原作では捜査協力を依頼すらしていない。大学時代の友人である草薙刑事から蓮沼事件についての愚痴(無念の意)を聞いた湯川先生が依頼も受けてないのに、積極的に事件解決に協力しようとするという二人の友情を強調する始まりなのに、映画では草薙刑事への相談も無く、勝手に内海刑事が湯川先生に相談し、しかも自分には関係無いと捜査協力を断る展開となってしまっていた。湯川先生と草薙刑事の友情という要素は省略かなと思いきや、最後に中途半端に二人の友情を蒸し返す。じゃあ最初から草薙刑事に相談に行かせれば良かったのに…と思わざるを得なかった。

・湯川先生がなみきやに通い詰めているという描写が無い。(よって並木夏美と粋なやり取りをするラストもカット)

・蓮沼が店に脅しに来た際に、並木祐太郎が包丁握った事。原作で並木祐太郎は娘を殺されたのに、蓮沼を殺すことができない自分に不甲斐なさを感じている人物なのに、あそこで包丁を握らせてしまったことで、後で「殺すかどうかわからない」と言われてもいや絶対殺すでしょ…としか思えないようになってしまっている。

・高垣君がめちゃくちゃ口の軽い人ってなってしまっている事。原作では高垣君は並木祐太郎に「あなたは計画に関わらなくても良い。それであなたを冷たい人間だとは思わない」と暗に言われていたり、戸島修作から「いざとなったら全て話しても良い」と言われていたりするから、取り調べで話すという行動に納得できるのに、省略された事で全く沈黙しない人物になってしまった。

・新倉留美が並木佐織を突き飛ばした理由を嫉妬に変えてしまった事。
あれは嫉妬ではなく、自分が叶えられなかった夢を自分の代わりに叶えてほしいという願望と夫の献身的なサポートを全て無に還そうとする並木佐織への怒りと絶望からの行動であって、嫉妬ではないと思ったんだけど…

そしてもう一つ。
それは実は原作自体が「で、結局何?」と思ってしまうほどテーマがブレブレになりかねない危ういバランスの作品である事を作り手が理解できていたのかという事。

原作者はこの話のイメージの元は『オリエント急行の殺人』であると述べていて、(パンフレット参照)
確かに「ある人物に恨みを持つ人々が共謀してその人物を殺そうとする」という基本のプロットは『オリエント急行の殺人』の超有名な真相そのままと言える。

しかし『沈黙のパレード』の最後で明かされる真相はそのプロットに一捻り加えたものになっており、確かにミステリーの構造としては面白いが、その付け加えた真相によって、軸のドラマがブレブレになってしまうという問題が生じてしまった。
原作は各登場人物の説明や描写をいっぱい入れてそれを分かりにくくしてるけど、映画はそれを省略せねばならず、この話が本来持つ危うい面が露呈する結果となってしまった。
連続ドラマの終盤3話くらい(しかも全て拡大スペシャル)を使って映像化するならまだしも、2時間の映画に収めるのは無理があったのではないかと思わざるを得ない。(それは仕方がない事なのは分かってるけど)

ただ冒頭で並木佐織の回想をまとめてやった事で幸せが突然奪われてしまった虚しさが強まっていて良いと思った。(のど自慢大会の初出場を高校生に変更したのは大正解。小4でタイタニック主題歌はあまり現実感が無い。)

あと再現実験で景気良くテーマがかかる所は問答無用で上がった。


エンドクレジットの映像。劇場版ガリレオシリーズの湯川先生と内海刑事を振り返る映像だった為、『容疑者X〜』と『真夏の〜』の比率が8:2くらいになっててちょっと残念だった。(自分は『真夏の方程式』派の為)

映画評価基準

この映画が好きか 6
没入感 7
脚本 6
映像 7
キャスト 10
感情移入度 8
音楽 9
余韻 6
おすすめ度 6
何度も観たくなるか 6

計71点