#コレも実は初レビュー
自我とは?愛とは?命とは?人間とは?
究極の問いを突きつけてくるSFの金字塔。
———以下、ネタバレあり。
2019年のロサンゼルス。その後のSFに圧倒的な影響を与えた退廃的でゴッタ煮な都市像と、色を失った無機質なコントラストで描かれるタイレル社の未来感。全編が白昼夢のよう。
過酷な労働を奴隷的に担うレプリカントだが、数年で感情が芽生えてしまうため安全装置として寿命は4年のみ。逃亡したレプリカントを解任(殺害)するブレードランナーが存在し、かつてそれを生業としていたデッカードに強制的な依頼が来る。
「人工か?」「もちろんよ」
フクロウのこと?それともレイチェル?
写真の中の酒瓶と、ディスプレイ脇の酒瓶。二重の視線。
ショーウィンドウを何枚も突き破ったさきの”外”で果てるゾーラ。あれは偽物の死なのか?
システムと自我。
統制と感情。
人間とレプリカント。
生と死。
自らの短命を呪い、享楽的にデッカードをいたぶりつつ、その殺し合いのなかで逆説的に生命を感じて喜んでいるロイ。
「そうだ、その意気だ」
死の間際にデッカードを救い上げ、語りかけるシーン。人間の限界より先に。
「私はおまえたち人間には信じられないようなものを見てきた。オリオン座の近くで燃える宇宙戦艦。タンホイザー・ゲートの近くで暗闇に瞬くオーロラ。そんな思い出も時と共にやがて消える。雨の中の涙のように。」
「死ぬ時が来た」ロイが目を閉じると、抱いていた白いハトが飛び立つ。茫然と目で追うデッカード。
この世界はどうなっているのか?
俺達が信じていたものは真実なのか?
自分はどこからきて、どこへいくのか?
ガフは銃を投げ渡しつつデッカードに告げる
「彼女も惜しいですな。短い命とは。」
目を覚ましたレイチェルに問う「ついてくるか?」ドアを出ると足元には銀色のユニコーンの折り紙。頷くデッカード。
ガフが作った折り紙「白い鳥」「(マッチ棒で作った)銃を持つ人形」「ユニコーン」の意味は。同業者の憐憫か、神の視点か。
——
原作は1968年、フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」。いわゆる”シンギュラリティ”後のように、レプリカントと人間を同じ存在として描いているのは1984年の当時としては画期的だった。ルドガー・ハウアーの演技も凄まじい。驚くことにロイの最後のセリフはルドガー自身が考えたのだそう。
人間ではないはずのレプリカントの感情と死を描くことで、逆説的に人間とは何かという命題を描いている傑作であると同時に、システムに組み込まれていた人間が、生と死を学び、過去と未来に疑問を抱き自発的な目的と意思を持つ解脱の物語でもある。