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ブレードランナー ファイナル・カットのハルのレビュー・感想・評価

4.0
21世紀初頭、遺伝子工学の発展は、人間にそっくりな合成人間「レプリカント」の生成を可能にした。折しも、宇宙では、環境破壊に伴う植民地開発が進んでおり、レプリカントは人類の奴隷として、過酷な労働や戦闘に従事させられた。しかし、彼らの中には、時間の経過とともに感情が芽生え、人類に反旗を翻す者が少なくなかった。このため、一定の時間が経つと死ぬように寿命が設けられたが、これを不服とした彼らは次々と脱走を企て人間社会に紛れ込もうとするのだった。これら造反者を見つけ出し射殺するのが、専任捜査官たる「ブレードランナー」の任務である。

そして、2019年。ロイ・バッティを頭目とする4名のネクサス6型レプリカントが人類に反乱を起こし、スペースシャトルを奪って地球へと帰還した。彼らを排除するため、職を退いていたリック・デッカードが再び呼び出される。かくして、退廃の匂い漂うディストピアは、追う者と追われる者たちによる闘いの舞台へと変貌したのだった。

SFの歴史を変えたと言われる傑作である。この映画の登場によって、それまで華々しいイメージを持たれがちだった未来社会に、無国籍で退廃的な匂いを含むディストピア(理想郷の反対)としての顔が加わった。アニメでは「AKIRA」や「攻殻機動隊」、ゲームでは「ファイナルファンタジー7」などが、その世界観を色濃くまとっている。

専任捜査官「ブレードランナー」が主人公だが、どちらかと言えば、追われる者たち(レプリカント)の方に感情移入させられてしまう。人間そっくりに作られながら人間として生きることを許されなかった彼らの哀しみが根底に流れているからだ。

「俺はお前たち人間には信じられない光景を見てきた。オリオン座の近くで炎を上げる戦闘艦。暗黒に沈むタンホイザー・ゲートのそばで瞬くCビーム。そういった記憶も時と共に消えるのだ。雨の中の涙のようにな。俺も死ぬ時が来た」

ロイ・バッティが吐くこの台詞は、虐げられた者たちの哀しみを見事に代弁している。実際、レプリカントが単なる敵役、反逆者にとどまらなかったのは、この言葉が観る者に強烈な印象を残したからである。

今でも、ふとした時に、ロイのこの台詞が頭の中に甦ることがある。そんな時、この作品を再び手に取ってしまう。センチメントな気分に浸りたいからではなく、ただ虐げられた者たちの声を無視できないだけである。
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