Iri17

ブレードランナー ファイナル・カットのIri17のレビュー・感想・評価

5.0
3度目、劇場では初めての鑑賞。

ポストモダンの到来を予見したフィリップ・K・ディックの傑作小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』を原作に、リドリー・スコットが創造主に対するレプリカントの反乱を映画化したSFの金字塔。

謎の青い目のクロースアップから始まるこの大傑作は、21世紀の都市の景観とそこに暮らす人々の生活を提示し、『失楽園』で描かれた神に対するルシファーの反乱を、人類とレプリカントの関係に置き換えることで普遍的な生命に対する問いを投げかけた。
恐らく映画史上最も魅力的なヴィランであるロイ・バッティは人類にとって敵であるが、「生きたい」という一点のみを主張する、人間よりも人間らしい存在として位置している。人と同じように思考し、愛し、生きたいと願うものを果たして僕たちは「モノ」として扱い、その生への渇望を否定することができるだろうか?

デッカードは果たしてレプリカントだったのか?それはユニコーンの夢のシーンや折り紙などに於いて暗示されてはいる。しかし、そもそもそれを問題視すること自体が、この作品の根本的テーマであるレプリカントと人間の境界線はどこにあるのかという問題を無視したものと言える。その境界線は存在するという信仰、一種の形而上学的なものでしかなく、ポストモダン的信仰の変種であると言えるだろう。
唯一の差異であると考えられた生殖能力の有無が『ブレードランナー2049』で認められることとなり、デッカードが4年以上生きようが、それ自体が議論の意味を持たないものになった。

原作でのマーサー教や電気羊、口うるさい妻は映画に於いて排除されたが、それは最良の選択だったと思う。最高の小説を最高の映画として昇華させた、これ以上ない映画化だ。
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