颯空

ブレードランナー ファイナル・カットの颯空のレビュー・感想・評価

4.8
本当に大好きな物語だけど、本当に悲しい物語だ。極度に都市化しあらゆる文化が溶け込みあった2019年のLAという一見華々しく見える舞台設定だが、物語には常に雨が降り、鉄のような冷たさと、終始悲しみや死の香りが漂う、主人公も弱く情けないという異色のSF作。だが、そこがこの作品の唯一無二で未だ他の誰にも真似できない魅力だ。主人公のデッカード(つまり人間(デッカードはレプリカント説もあるけど))の無力さをありありと描き、人間の身勝手に産み落とされ、人間の身勝手ゆえにその寿命が迫られている、その寿命の短さに関わらず感情を持ったネクサス6型レプリカントの死に対する焦りと、仲間への思いと人類への怒りと葛藤。これは単なる人類対非人類の話ではなく、生にしがみつく哀れで美しい、生きとし生ける眩い全ての者へ送る鎮魂歌のような映画だ。ヴァンゲリスによる劇伴もそんな世界観の構築に多大なインスピレーション、刺激を与えてくれる。全てが素晴らしい映画。
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