あでゆ

最後の決闘裁判のあでゆのレビュー・感想・評価

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
4.8
◆Story
中世のフランスで、騎士カルージュの妻マルグリットが、夫の旧友であるル・グリから暴力を受けたと訴える。事件の目撃者がいない中、無実を主張したル・グリはカルージュと決闘によって決着をつける「決闘裁判」を行うことに。勝者は全てを手にするが、敗者は決闘で助かったとしても死罪となり、マルグリットはもし夫が負ければ自らも偽証の罪で火あぶりになる。

◆Infomation
エリック・ジェイガーによる「最後の決闘裁判」を原作に描くミステリー。600年以上前にフランスで行われた、決闘によって決着をつける「決闘裁判」の史実を基に、暴行事件を訴えた女性とその夫、そして被告の3人の命を懸けた戦いを映し出す。『グラディエーター』などのリドリー・スコットが監督を務め、マット・デイモンとベン・アフレックが脚本とともに出演も果たす。ドラマシリーズ「キリング・イヴ/Killing Eve」などのジョディ・カマー、『マリッジ・ストーリー』などのアダム・ドライヴァーらが共演する。

◆Review
2021年ベストともいえる傑作。
全体のお話としてはリドリー・スコットよろしく、『悪の法則』や『プロメテウス』などのように一貫して、自分の運命を自分で決める力を奪われてしまった人が、世界に翻弄される姿を描く。
そこに『羅生門』の三幕構成を取り入れて「ホラーはコメディにもなりうる」的な計算された演出により、映画本来の歓びをエンタメとして取り入れた素晴らしい一本だった。masterpiece.

演出は一つ一つが計算され尽くされており、素晴らしいの一言。
全体として見ても、最初はマット・デイモンに感情移入し、次はアダム・ドライヴァーに対してお前の気持ちもわかるよと思い、ラストでは虚無の決闘に感情を奪われてしまう。それだけではなく、各シーンの作りも見事としかいうことができない。
例えば第二幕の宴でアダム・ドライヴァー演じるジャックスに女遊びをさせ、あの暴力的行動が受け入れてもらえるという人生を描いておきながら、ラストでマルグリートに対して同じことをさせるシーンなどは、自然と「あーー......」という声が漏れてしまうほどにやるせない気持ちになってしまう。

また、主演陣の演技そのものも見事で、幕ごとの微細な演技の機微によって、視聴者はそれまでとは全く異なる印象を受けてしまうのだから恐れ入るしかない。
何気にベン・アフレックのとぼけた演技が『ゴーン・ガール』ぽくもあり、こいつのせいでややこしいことに......みたいなところも含めて良かった。

映画評論家の面倒な問題のせいで、本作は男女の問題に終始しがちな感想が飛び交っていた。
しかし、この物語の本質は、いやリドリー・スコットの絶対的なテーマは「規範によって圧殺されていく人々の踠き」なので、そういう点を評価すべきだと思う。
この映画は「一人の女性が立ち上がってNOを突きつけて戦う」話ではなくて、「一人の人間が立ち上がっても、正体の見えない社会規範によって文字通り神に委ねざるを得ない」という個人の無力さとその辛さの話なのだ。

パンフレットが制作されなかった点は、苦言を呈しておきたい。
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