とりん

最後の決闘裁判のとりんのレビュー・感想・評価

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
4.1
2021年90本目(映画館30本目)

リドリー・スコット監督といえばアカデミー賞を受賞した「グラディエーター」をはじめとした大作、SFから史劇まで超スペクタクルでお届けしてくれる監督だ。映像はどの作品も素晴らしいが、内容に関しては個人的な当たり外れが大きい監督でもある。そのため過度な期待は禁物なのだけれど、周りの評価がかなり高かったので嫌でも期待値は上がっいたものの、それに応えるだけの濃厚さでした。

タイトル通り本作はある事件に基づく決闘裁判が主軸となっているのだけれど、その開幕シーンで映画が始まり、そこに至るまでを描いた3部作構成になっている。まずこの3部作構成が憎いなと。
妻を凌辱され報復のために決闘裁判を訴えるカルージュの視点、それを受け無罪を訴えるル・グリの視点、そしてその被害者であるマルグリッドの視点が描かれる。
まずカルージュの視点で全体のあらすじを知ることができ、本作の背景やカルージュとル・グリの関係性、そして事件、裁判に至るまでの過程を知ることができる。言わばまず全体を知ることができる。マット・デイモン演じるカルージュは猛々しく伯爵から突き放されても妻のため領土のため、名誉のために動く熱い男を見ることができる。彼の視点では事件の当事者ではないため、事件の内容に直接触れることにはならない。

次にル・グリ、ここで事件の内容が描かれる。アダム・ドライバー演じるこの男は顔も良く、伯爵からの信頼も厚いが、女性を常にはぶらせているような人だ。まぁそんな彼だけど、後半になるにつれてなんで嫌なやつなんだと思い、終盤では嫌悪感ばかり生まれてしまう。

そしてマルグリッドの視点、男2人の視点とは違い、彼女の視点では全ての真実が語られる。ジョディ・カマー演じる彼女はとても美しく、綺麗な長い金髪、スクリーン越しでも目で追いかけてしまうほど。髪型が三つ編みや編み込みなどその点でも彼女に魅了された。ル・グリの視点でも事件の内容は見ていて辛い描写で描かれていだが、彼女の視点でより生々しくリアルに描かれる。心苦しさと同時に怒りと嫌悪感しか生まれてこない。それくらいアダム・ドライバーの演技が良い意味で嫌悪感を植え付けてくれた。

この3視点、この順序で進むことで徐々に真に向かうことができて、次第に前のめりになっていく。同じ場面でもそれぞれの角度から見る事でまた違う印象が生まれる。カルージュなんて妻想いの熱い男かと思いきや、他の2人の視点から横暴で名誉のためだけに生きている男ということがわかったし、ル・グリの評価は言わずもがな。
マルグリッドの女性として強く生きる姿に心打たれる。中世(1300年代)のこの時代で女性が不遇であることは言うまでもないが、そこで自分は正しいと訴え立ち上がる力がある。もちろん周りからの白い目や当然のように耐えろという風当たりもある。それでも彼女は自分がされたことを許さなかった。

カルージュは事件に対して妻を傷つけられた怒りはもちろんあるが、誇りが傷つけられた、自分の持ち物を、名誉を汚されたという方が大きかった。それはル・グリも同様、凌辱したのは間違いないが彼自身も結局は自分の尊厳のために動いている。この時代の男ならでは感はあるが、だからこそ物語が成り立つ。

そしてなんといっても最後の決闘シーン。決着がつくまで手に汗握りずっと歯を食いしばって見てしまっていた。それほど圧倒されたし、スクリーンに吸い込まれるようだった。
もちろん作品全体を通して映像は素晴らしいし、音響もとてつもなかった。剣と剣がぶつかり合う音、拳の音、あらゆる細かい音もしっかりと響いていたし、突き刺さった。リドリー・スコットここにありというのがたまらなく伝わった。

これは間違いなくこの年の名作の一つだし、彼の作品でも傑作の一つとなるだろう。
ただのバトルものにもできるこの内容をしっかりドラマ性と構成を組み立てる事で、これほどまでの大作に仕上げたリドリー・スコットを賞賛したいし、メインの3人を含む俳優陣の演技がかなり素晴らしかった。
とりん

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