カツマ

LAMB/ラムのカツマのレビュー・感想・評価

LAMB/ラム(2021年製作の映画)
4.0
大自然の風景に不穏な影が潜む。忍び寄る何か、恐るべき実体は見えないままにその美しい大地に禁忌は滲む。それはある幸福の形。ただし、恐らく普通ではないケースであった。存在するのは夫婦と羊たちによる牧歌的な毎日。のはずなのに、そこにあるのは時間のように途方もない生き物だった。山々はただ黙さずに語らず、雄大な風を吹き付けるばかりであった。

第74回カンヌ国際映画祭である視点部門を受賞した、正に『ある視点』に強烈に特化した作品である。監督は『ローグ・ワン』などで特殊効果を担当したアイスランドのクリエイター、コバルディミール・ヨハンソン。主演を務めるのは製作にも入るほどの気合の入れようのノオミ・ラパス。A24が配給を獲得したことでも話題になり、ここ日本でも一部で話題を攫った?ミニシアター臭全開の一本である。主演のノオミが抱きかかえる羊は一体どんな意味を持つのか?謎めいたストーリーと大自然が静かに押し寄せる作品だ。

〜あらすじ〜

そこはアイスランドの山奥の羊飼いの家。そこに住むマリアとイングヴァルの夫婦は羊飼いを生業としながら、時間と人に左右されない二人だけの生活を送ってきた。そんなある日、二人にとある宝物が舞い降りる。それは羊から産まれた羊と人間の身体を持った子どもで、頭は羊だが二本の脚を持ち、人間の赤ちゃんのようにも見えた。その子どもを育てることにした二人は、その子に『アダ』という名前を付け、人間の子どもと同等に愛し、育んだ。だが、古屋の外にはアダの母親の羊が常に我が子を取り戻さんとするかのように啼き続け、その羊を目障りに思ってきたマリアは遂に銃を手にして母羊を殺してしまう。束の間に訪れた静寂と平穏。しかし、イングヴァルの弟ペートゥルが転がり込んでくると、少しずつ平穏な日々は暗礁に乗り上げて・・。

〜見どころと感想〜

非常に静かで淡々とした物語である。が、そこには明確なメッセージ性が横たわり、常に不穏な空気が付き纏う。前半、その気配は巧妙に忍び寄り、ラストに一気に集約してはこの映画の全貌を突如として発覚させる。いつものようにアイスランド映画はその美しい大自然と反比例するかのように不条理で、今作も漏れなくその例に連なった。雄大な山々が徐々に影を帯びているように見えるのは、曇天が多いから、だけではなかっただろう。

主演のノオミ・ラパスはハリウッドにも進出しているが、北欧圏では特に主演クラスとしてお馴染みの名女優。アクションもこなせる彼女だが、今作では感情を押さえながらも時に爆発させる演技が素晴らしく、彼女の心の揺れ動きがそのまま映画の物語とリンクしている。他は全てアイスランドの俳優で締められているが、メインの登場人物は4人と少ない。ミニマルな人間関係なので相関図は比較的分かりやすいだろう。

観終わってみると非常にメッセージは簡潔で明快。なのだが、終わってみないとこの面妖な不快感は説明できないはず。静かだが強烈。穏やかに苛烈。ジワジワと染み渡る余韻が奇妙に残り、この不可思議な映画の後味を増大させる。日本で言ったら『桃太郎』や『竹取物語』のような寓話、または御伽噺のようなお話。本当は怖い昔話を素で行くような、嘆きのような感情がただ音もなく降り積もっていくようだった。

〜あとがき〜

本当は映画館で観たかった本作が早くもアマプラに来ていたので早速鑑賞。簡単に言うと、とてもとても変な映画でした。なので絶対に好き嫌いは分かれる映画だと思います。

何しろ楽しい映画ではないし、面白かったか?と問われれば微妙。にも関わらず結構好きだったんですよね、この映画。観終わったあとにジワジワ来るというか。心に残るものがあるならばそれは良い映画なのかな、と思ったりしました。
カツマ

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