りょう

LAMB/ラムのりょうのレビュー・感想・評価

LAMB/ラム(2021年製作の映画)
4.0
 日本の劇場公開からほぼ1年を経過してしまったので、ネタバレになるビジュアルを何度か観てしまい、「この映像でまともな映画になるのか?」という半信半疑のままで観ました。
 主な登場人物は、アダを含めた4人とエンディングに正体が判明する1人だけ、舞台は人里離れた牧場なので、物語そのものはとてもシンプルでした。ゆったりとした映像表現が丁寧なので、あまり深読みしなければ、ほとんど難解な場面もありません。
 おそらく意図的に人間のセリフを排除している一方で、極めて自然でありながら、物語を説明しているような動物たちの描写が秀逸です。冒頭の野生馬の群れからはじまり、羊たちや犬・猫に至っては、ほとんど演技しているかのようで、何なら表情すらあるようにも思えます。
 過去のフラッシュバックのような映像からすると、この夫婦は自然の摂理によって子どもを失ったようです。アダの誕生に遭遇しますが、それはたまたま飼育している家畜が身ごもっただけで、本来は他者が享受する新たな生命だったはずです。それを一方的かつ残酷に奪ってしまえば…という物語でした。ただ、3人の大人たちには悪意のようなものを感じられないので、あの衝撃的なエンディングまでは、それに気付きませんでした。
 映画的にはアダのビジュアルが不安でしたが、ほとんど違和感がなく、むしろナチュラルな可愛さが魅力でした。大人たちの言語を理解する一方で、ヘンにしゃべらないことも好印象です。北欧の作品では「ハッチング-孵化-」が類似していますが、まったく別々のアプローチと作風でした。どちらもアメリカやアジアなどでは表現できない独特の雰囲気が印象的です。
 ちなみに、マリアが母羊を片腕でひきずるシーンがありますが、あり得ない怪力に絶句してしまいました。これはこれで何かの意味があったのかもしれません。
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