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クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲のRIOのレビュー・感想・評価

5.0
「父ちゃん、オラ迎えにきたよ」

クレしん映画史上最高傑作と名高いオトナ帝国の逆襲。

久々に観たけど、何度観ても色褪せないアニメ映画の大傑作だなと、改めて実感。

少しずつ奪われていく日常を、
家族を忘れてしまった罪と向き合いながら、かけがえのない幸せの日々を取り戻すために、ただそれだけのために、
ただただ一途に守り抜く。

クレしん映画特有のギャグ要素と、日常が崩壊していくホラー要素、感動のヒューマンドラマ要素などが絶妙なバランスでブレンドされている上に、まったくごちゃごちゃしていないテンポの良さ。

感情の起伏と高ぶる温度を、手描きのアニメーションと巧みなカメラワークの中で、秀逸に表現する監督のスキルの高さに何度も感心してしまうし、

ラストのしんのすけの全力ダッシュには、もう涙腺崩壊。
人が死なないアニメ映画で泣かされるなんて、凄すぎませんか?

ケンとチャコのキャラクターもすごく良い。
戦争の過去を悪とし、”未来の世界は絶対に今より良いものになっているはずだ”
そう信じ、20世紀を生きる人々。

いや、そんなことはない。
確かに戦争の過酷さを味わった我々にとって、過去の時代は悪だ。
だから、そんな悪から必死に逃げて、より良い未来を夢見ていたころの人々は夢と希望に満ちていたはず。

あの頃を思い出してみろ。
こんなゴミと金に埋もれたつまらない世界より、よっぽど素晴らしい時代だったじゃないか!

大人になるということは、希望を失うということ。
冷たくも残酷な現実を受け入れ、幼い時代に夢見ていた輝かしい希望を捨てなければいけない時が来る。

だったら大人になんてならなくていいじゃないか。
星のように輝いていたあの頃をまた生きよう。
あの頃味わったものは、今なんかよりもずっと濃厚で、美味しいものなんだから。

流れ狂う時代の勢いに逆行し、人生のずっと先まで希望を見出そうとする2人は、しんのすけたちからすれば、悪の存在だが、
どこか憎めない魅力があって、思わず感情移入してしまう。


僕は2003年生まれだが、この作品が公開された年に生まれてもいなければ、20世紀を1度も生きたことがない。

だから、死ぬほど羨ましいのだ。
確かに、本作を観て感動した。
目が腫れるほど涙を流した。

でも、上映していた当時、子ども向けだと思い、子どもを連れて観に行った親たちが、ボロボロと涙を流したその感動を、
そのノスタルジックな気持ちを僕は一生感じることができない。

そして、当時まさにしんのすけたちと同じ5.6歳で、しんのすけと同じ目線で本作を観れた、今の20代の人たちの感動すらも理解を深めることができない。

本当に可哀想な年代に生まれてしまったものだ。

1960年〜2000年代初頭。
国内国外ともに映画、ドラマの黄金期。

スターウォーズ、ジョーズ、ロッキー、
2001年宇宙の旅、ターミネーター、
ゴーストバスターズ、シャイニング、
E.T.、グレムリン、チャイルドプレイ、

ジュラシックパーク、プレデター、
バックトゥザフューチャー、エイリアン、
パルプフィクション、セブン、レオン、
ホームアローン、羊たちの沈黙、
天使にラブソングを、シックスセンス、
シザーハンズ、ライフイズビューティフル、
ニューシネマパラダイス、

トイストーリーなどのピクサー作品に加え、もののけ姫などのジブリの傑作たち。

ケイゾク、ロングバケーション、踊る大捜査線、古畑任三郎、犬神家の一族、GTO、
TRICK、HERO、
などなど、ドラマも名作たちが勢揃い。

数えても数えきれないほどの名作映画、名作ドラマたちがもの凄いクオリティで作られ、次々と世に出て、後の業界に大きな変革をもたらしてきた。

この年代の作り手が作ってきたものがもたらした影響は、計り知れないものだったのだ。

そして、その夢のような時代を生きた人々に言いたい。

今の時代は進化しすぎた。
良くなったこともあるが、失ってしまったものがあまりに多すぎる。

テレビを観ていて思う。
つまらない時代に生まれてしまったなと。

インターネットの普及により、テレビを観なくなり、視聴者が集まらなくなる。
       ↓
今までやってきた手段では数字が取れなくなり、視聴者に媚びるようになる。
       ↓
作品の質が落ちる。

この最悪の流れが、最先端の時代の流れとともに出来上がってしまっているのだ。

自分の作りたいものを作る。
やりたいことをやる。

そんな本気の思いで作ったものを我々視聴者が観れるのなら本望だ。

しかし、ここ数年のテレビ番組、ドラマ、映画などは、流行りの役者や人気の芸人を出さなきゃ数字が取れないほど衰退してる。

役者を売れさせるためだけの、ただの道具にすぎないのだ。

だからこそ、
あなたたちが生きた夢のような時代は本当に素晴らしい。
今の日本社会は、夢と希望を失った腐りきったゴミが山のように積み上げられてるが、空では今もなお輝く星が少ないながらも光を照らしている。

でも、あの頃の時代は、大量の一番星が絶えることなく満天に輝き続けていたはず。

私には悔しくも一生経験することのできないかけがえのない希望に満ちた時代だったんだ、と。

色々なエンタメのムーブメントに乗れる乗れないどころか、その入り口にさえ入ることができなかった、
“遅れすぎた映画ファン”
である僕にとって、世代の壁というものは決して取っ払うことのできない一種のコンプレックスのようなものである中、

幼い頃からずっと観てきた、
唯一その障壁を越えて楽しむことができた
と言っていい「クレヨンしんちゃん」こそが、私にとってかけがえのない希望であり、

今作こそが、生涯ベストに選ぶべき素晴らしい作品なんだと感じます。

おそらく本作を超えるクレしん映画はもう出てこないでしょう。

クレしん映画、アニメ映画、いや、
映画史に残る世紀の大傑作。

クレヨンしんちゃんて…子ども向けなんでしょ?普段アニメとか観ないし。
なんてことを思ってる方には、ぜひ観ていただきたい。

その価値観がひっくり返るほどの衝撃を感じるはず。

そして、日本の声優界を支えてきた
藤原啓治さん。

数えきれないほどの感動を下さり、本当にありがとうございました。

ご冥福をお祈りいたします。

長文大変失礼しました。
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