サンヨンイチ

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲のサンヨンイチのレビュー・感想・評価

4.3
クレしん史上傑作と名高い作品ですが
ああ、なるほど、と。
今作を越える作品はまあでないでしょう。

洗脳された大人達を見上げる子供目線から見た、何とも言えない異様な怖さ。
未来への道筋を失い、現在に取り残されてしまった子供達だけの世界の場末感。
ホラーなのかスリラーなのか、表現に困るが、
鑑賞対象となる照準が明らかに成人に設定されており、
当時はこの映画にトラウマを持つ子どもが多数発生したはず。
離れた子供心を取り返すように、バチボコにギャグを放り込んでくる春日部防衛隊が奮闘。18年前のネタなのにめちゃめちゃ面白いのは何で?

塔でのモブから逃げ回るシーンや
しんのすけ激走の長回し(アニメーションを長回しとは言わないとは思いますが)シーンのアニメーションのパワーがいかつい。
手汗溢れる臨場感。
あえて粗い映像にすることで二次元に命を吹き込むように駆動させる技術力。
アニメは何年も前からエネルギッシュだったんですね。

個人的に最近思う所があり、
同窓会や過去を回顧することは
見たくない現実からの逃避であり、
逃避のための回顧だからこそ
過去が美しく素晴らしい瞬間だったと思ってしまう、虚構に作られたイメージなのではないかと考えています。
実生活においてはある意味貴重な逃げ道であり、それを多用する人々のことを私は信用ならない訳ですが、
今作での昭和至上主義はまさにそんな現実への閉塞感につけこんだ洗脳。
首謀者の思想はマクロ的視点で、描いていた理想的な「平成」にならず、むしろ悪化していく時代への憎悪が生んだヴィランとなる。
ヴィランとしてのオリジンは必要最低限以上に描写せず、「平成」が彼らに及ぼした出来事については観客の想像に委ねている。
マーベルならば描いていたであろう惨事の顛末のシーンを抑え、彼らのミステリアスなイメージを崩さず、
ストーリーとしてはシンプルに纏めあげ89分という驚異的な短さで締め上げている。えげつない。

20世紀博へ向かうトラックではあんなに笑顔だった大人達が、
子供を捕まえる任務に就かされたとき、
顔中に皺を作りながら現実の世界へ戻り、だらだらとこなす姿は、
私たちの現実への向き合い方を投影しているようで、ショッキングな風刺となっている。

こうした昭和主義者の至極まともな、信条に対し、
戦う武器は「家族の絆」と「普通の人生を歩むことのかけがえのなさ」である。
歩んできた苦悩も葛藤も全部が自分自身であり、どれも捨ててはいけない大切な日々であることを実感させられると共に、
家族ってすばらしい関係じゃない?と
どストレートをぶちこまれる作品。

平成最後といわず、いつまでも多くの人に見続けられる作品でありますように。