しちれゆ

スープとイデオロギーのしちれゆのレビュー・感想・評価

スープとイデオロギー(2021年製作の映画)
4.0
【済州4・3事件】1948年、米軍支配下にあった済州島で南朝鮮の単独選挙に反対する島民の武装蜂起が起こり、反共の名のもとに島民が大量虐殺された事件。

この事件のことは全く知りませんでした。韓国映画でしばしば人々の憧れのリゾートとして出てくる済州島(チェジュ島)にこんな歴史があろうとは…。

本作はヤン・ヨンヒ監督が描くオモニのドキュメンタリー。息子たち3人を帰国事業により北朝鮮に送り出し送金を続けるオモニ、それに疑問を持つ監督はオモニが経験した済州4・3事件を紐解いていく。

オモニは大戦下18歳の時に済州島に疎開をしてこの事件に遭遇した。その悲しい記憶を封印して生きてきたオモニは認知症の症状が出るまでは元気で明るく、監督の夫となる人のために鶏を丸ごと一羽、中に目いっぱいのニンニクと朝鮮人参を詰め込んだ料理を作る。首領様を敬愛するオモニ、北朝鮮の現実を知っている監督、日本人の夫、彼らはひとつの食卓を囲んで同じものを食べることで笑顔になっていく。大切な人に美味しいものを食べさせたい、と思う気持ちは立場や思想を超えて人を繋いでいくのです。
そして監督夫婦とオモニは済州島に渡る。
命からがら済州島から密航船に乗って日本に帰ってきた若き日のオモニを知り、今は記憶が曖昧になっているオモニを見つめる監督の優しい眼差し。オモニには誰とも分かち合えない体験があり悲しみがあり、それが彼女を形作ってきたことを理解し受け入れた監督。どんなオモニであってもオモニは私のオモニ、と言うかのような監督と、そこに寄り添う監督の夫君がとても素敵だった。
明るく元気だったオモニが少しずつ老いていく様子が昨年逝った私の母と重なって切なかった。
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