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エレクション 黒社会のnetfilmsのレビュー・感想・評価

エレクション 黒社会(2005年製作の映画)
3.9
 ヤクザ映画(任侠映画)において彼らが実力行使する事態になるのは、ヤクザ同士の抗争か、警察官との仲違い(普通の捜査)か、跡目争いのいずれかにおいてである。日本でヒットしたシリーズ物である『人生劇場 飛車角』、『日本侠客伝』、『網走番外地』、『昭和残侠伝』、『兄弟仁義』、『博徒』、『博奕打ち』、『緋牡丹博徒』、『日本女侠伝』などを観れば一目瞭然だが、ヤクザ映画は前述した3つの理由に「仁義」「義理・人情」を交えたものである。ジョニー・トーの香港ノワールと呼ばれるジャンルの作品も、これら日本のヤクザ映画の構造をそのまま踏襲していた。ヤクザ同士の抗争は『ヒーロー・ネバー・ダイ』や『ザ・ミッション 非情の掟』で、警察官との仲違い(普通の捜査)は『PTU』や『ブレイキング・ニュース』で再構築したものの、3つめの跡目争いに関する映画は撮っていなかった。そのヤクザ映画の3つめのジャンルに挑戦したのが今作である。

 序盤から中盤までの本線は、跡目争いとその象徴となる竜頭棍の行方である。彼らは逮捕され塀の中にいるが、彼らの舎弟たちが必死になって竜頭棍を探し求める。ラム・シューやニック・チョンやルイス・クーがロクのために必死になって竜頭棍をリレーし、一度は跡目争いの勝敗が付いたかに見えた。しかし運命の糸は残酷な方向へと舵を切っていく。今作は純然たるヤクザ映画であるが、一発の銃声もライフルの乱射も出て来ない。そこにあるのは青龍刀のようなドスを使った血生臭い肉弾戦だけであり、跡目争いは表向き、抗争に発展することがない。それは裏切りと駆け引きに端を発した静かなるネゴシエーションの映画であり、男たちの策略が張り巡らされたきな臭い争いなのである。だからこそクライマックスでは突発的な凶行に出たロクは、まだ幼い息子に残忍な姿を見せてしまう。日本製のヤクザ映画に慣れ親しんだ者からすれば、特に驚くような展開はない。しかしそれこそがヤクザ映画の揺るぎなさであり強さなのである。
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