YasujiOshiba

シチリア!シチリア!のYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

シチリア!シチリア!(2009年製作の映画)
-
DVD。トルナトーレ祭り。政治や歴史もそうだけど、トルナトーレの自伝的作品にはシネフィル的な要素がかかせない。

なにしろ冒頭でジョヴァンニ・パストローネの『カビリア』(1914)のソフォニスバの夢のシーンが登場する。それはアクロバティックな時代の飛翔の行き着く先。始まりは1960年代のピエトロのコマ回しのシーン。次いで1930年代のファシズム時代に小学生だった父親ペッピーノの教室。そしてそのペッピーノの夢のなかで、祖父のチッコがサイレント映画の傑作『カビリア』の夢のシーンへとジャンプする。

なんとも大胆なジャンプ。それだけではない。映画の中盤にはアルベルト・ラットゥアーダがバゲリーアに『Il mafioso (マフィア)』(1962)の撮影に来ているシーンが登場するし、ピエトロが父ペッピーノに連れられてシドニー・ルメットの『A view from the bridge / Uno sguardo dal ponte (橋の上からの眺め)』(1962、日本未公開)見に行くシーンがあるが、これはトルナトーレ自身の思い出だという。

さらに時代が進み、学生運動が盛んになる1960年末には『フェリーニのサテリコン』(1969)のポスターを見ることになる。ペッピーノの子どもたちの世代の集会やデモ。そんな時代のギャップをみごとに象徴するのがフェリーニの『サテリコン』というわけだ。

そしてラストの駅の別れのシーンにはロージの『Tre fratelli(三人の兄弟)』(1981)のポスターが、はっきりそれとわかるように登場する。ロージの『Tre fratelli』は、三人の兄弟が花の葬儀に帰ってくる話であり、兄弟たちが寄り添うのは愛する妻を失って呆然とする父なのだ。そんな映画のポスターを背後にして、ペッピーノはおそらく2度と会えないかもしれない息子への強い想いを脳裏に浮かべる。ペッピーノは自分の死を予感しながら、その息子ピエトロを送り出す。そのピエトロとは、世代的にトルナトーレその人にほかならない。

ロージの『Tre fratelli』にはさらなる含意がある。70年代の後半に激化してゆく「鉛の時代」の総括だ。マフィアがあり、イデオロギーの戦いがあり、テロリズムの恐怖。そんな時代にあって、暴力やイデオロギーを越える価値を称揚するロージの美学を、トルナトーレ/ピエトロは追いかけてゆくことになる。

なるほど、じつに自伝的な映画であり、トルナトーレの身体のなかに響きあたるバゲーリアの記憶のポリフォニーでもある。ただ、あまりに細密に描きこまれているものだから、とても一回では消化できない。その点に関しては、『マレーナ』や『明日を夢見て』、あるいは『ニュー・シネマ・パラダイス』のほうが断然わかりやすい。素材がもりこまれすぎなのだ。

それでもイタリア版DVDのコメンタリーを聞けば、その素材の一つ一つには、直接的あるいは間接的に、彼自身の身体的な裏付けがあることが強調される。聞けばなるほどそうなのかと発見がある。なるほどこれは、大いなるシネフィルにしてストーリーテラーが、みずからのルーツを描きこもうとした大いなる歴史絵巻というわけなのだ。

それにしてもトルナトーレって、ラストにこだわるね。時間の流れをうまく利用して、おお、そうだったのか、というエンディングを狙うのだよね。でもね、フェリーニのラストのような自然でなおかつハッとさせながら、すっと腑に落ちてくるラストとは違うんだよな。象徴的な小道具に頼りすぎではないだろうか。本人は気に入ってるみたいだけどね...
YasujiOshiba

YasujiOshiba