Yoshishun

女神の継承のYoshishunのネタバレレビュー・内容・結末

女神の継承(2021年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

"人智は神をも超える"

-真夏のホラー映画ハシゴ 前編-

地元で同じ映画館でまさかの本作と『哭悲』が同時公開。
これは見逃せない!ということで地獄のハシゴをしてきた。


本作は、『哭声』のナ・ホンジンが原案・製作を務めたオカルトホラー。公開前から18禁であることを大々的に宣伝していたが、非人道的行為やクライマックスに向け拍車がかかるグロ描写、突拍子もなく放り込まれるエロスを観ればこの審査は妥当といえる(ただし映倫の審査理由は性愛描写のみなのでそこを鵜呑みにしては絶対にいけない)。
なお、ナ・ホンジン曰く、本作は『哭声』のスピンオフとしての色合いも兼ねており、本作鑑賞前に『哭声』を予習しておくといいらしい(未見のまま臨んでしまったが)。

また、鑑賞前まで全く知らなかったのだが、本作はモキュメンタリー形式(フェイクドキュメンタリー)で撮られている。更に物語の舞台であるタイ東北部の町イサーンの街並みもほぼ本物。つまり、モキュメンタリーでありながらも現実か映画かの絶妙なラインで成立した作品となっている。イサーンにおける文化や宗教観、生活様式も忠実に再現され(メイキングやパンフレット必見)、本作で描かれる地獄絵図も現実的にあり得る光景なのかもしれない。

更にタイトルがミスリードであり、女神の継承ではなく、得たいの知れない"何か"を継承(というより憑依)してしまい、祈祷師一族が崩壊していく。従来の祈祷師映画よりもローカルさが際立つものの、クライマックスではホラー映画の玉手箱といえるほどにショッキングシーンのオンパレードとなる。徐々にジャンプスケアが増加していくと共に、化けの皮が剥がれたかのように暴走していく。子どもを突き飛ばす、突然殴りかかるといった抑え目な恐怖描写から、肉体損壊、動物虐待、ゾンビのような怪物化とパワーアップ。ある意味恐怖のジェットコースタームービーといえるだろう。

さて、冒頭に書いたが、本作はまさに"人智が神をも超越した存在となる"作品である。崇拝される女神でさえも太刀打ちできない凶悪な存在。しかし、その根源にあるのは、資本主義の生け贄となった労働者の怒りである。長らく、巨大な怨念が蓄積されていき、やがて取り憑く対象を人間とはかけ離れた存在、すなわち悪魔へと変貌させてしまう。終盤、女神の巫女ニムの姉ノイは、ついに女神を感じ取ることに成功する。しかし、封じ込めれる程の力を持つはずの女神でさえも無惨に焼き殺され、一族壊滅という最悪な結末を迎える。労働者の怨念は神の救いをも上回る程の巨大な力を持つ。そこに神をも超える人智がある。さらに追い討ちをかけるような、衝撃のラストシーン。初めから負け戦だったかのような語りにやるせなさしかない。

本作はオカルトホラー映画史に残る怪作として語り継がれる程のパワーを秘めた作品であることは間違いない。ただそれだけに、致命的な欠点があるともいえる。
それは、肝心の憑依した悪魔の存在にある。
祈祷師映画といえば、70年代の名作『エクソシスト』が思い浮かぶ。やはり祈祷師映画の祖である以上、以降様々なホラー映画でオマージュが捧げられている。それと同時に、悪魔はこうあるべきという模範解答ともいえる設定もあり、本作における悪魔はどうもありきたりすぎる。男に対して色欲を見せ、物理的に人間に危害を加え、謎の液体を吐き出し、自由に声帯を変化させる。祈祷師一族の描き方は割と斬新である一方、悪魔の描き方は普遍的すぎて全く面白くはない。

また、クライマックスである儀式までの5日間を隠しカメラで撮影するシークエンスがあるのだが、それまでリアリティーのある描写が続いていただけにあそこだけ憑依されたミンの動きを含めて滑稽に見えてしまった。どこぞのPOVホラーと何ら変わらない残念な演出だった。


とはいいつつ、全編異様なまでの気味の悪さが漂い、今夏最恐の作品は本作と言い切れるほど、ホラー映画としての品質は高い。ほんの少しでもグロ耐性がある、『ミッドサマー』信者、そして非人道的描写も難なく観れるという方にオススメ。
救われない映画好きには特にオススメしたい。



……それにしても、『哭悲』といい本作といい、幼児に怨みでもあるのか?
Yoshishun

Yoshishun