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都会のアリス 2K レストア版のワンコのレビュー・感想・評価

4.5
【ロードムービー三部作の①/欧州とアメリカの融合】

ヴィム・ヴェンダースのロードムービー三部作と呼ばれる作品の最初だ。

どうして、ヴィム・ヴェンダースは、こうしたロードムービーを多く撮るようになったのだろうか。

そんなことも考えたくなる、最初の作品だ。

ロードムービーという名称が定着する前のものを入れると、フェリーニの「道」が相当古いロードムービー作品なのだと思うが、ロードムービーが映画の大きなテーマになるきっかけは、なんといっても、デニス・ホッパーの「イージー★ライダー」だと思う。

日本で、ヴィム・ヴェンダースが知られるようになったのは、「パリ、テキサス」と「ベルリン、天使の詩」が大ヒットしたことがきっかけで、日本では、この作品を含むロードムービー三部作は、この後、相次いで上映された。

「パリ、テキサス」には、ソニーのウォークマン初号機が、「ベルリン、天使の詩」では、クラブで日本人女性が話す場面が収められていることも、日本人のハートをくすぐったのかもしれない。

この「都会のアリス」は、失意のうちにアメリカから帰国するフィリップと、少女アリスの、ちょっとした冒険の旅なのだが、アメリカンドリームを抱いても、成功するのは僅かで、そうした失意の人間を、故郷は受けて入れてくれるのだろうか、自分のアイデンティティはいったい何なんだろうかといったことが描かれていると思う。

祖母の家を探すアリスと旅をし、自身も父親のもとに帰ろうと考え始めるフィリップ。

アリスは、旅を伴にしながら、フィリップに対して父親像を求めているのかと思ったりするが、実は、ほのかな恋心を抱いているのだと確信して、ちょっとほほえましくなる。アリスは、この短い旅を通じて、一気に成長し、大人に近づいたのだ。

アイデンティティとは何かと問われると、生まれ育った場所や所属する集団を考えることが多いように思うし、実際に作品も故郷へ帰る道程を見せているのだが、この冒険譚を通じた二人の成長を見ながら、アイデンティティも実は多様であって良いのではないかと思わせてくれる。

ヴィム・ヴェンダースは、フェリーニもデニス・ホッパーも敬愛しているし、この「都市とアリス」は、ヨーロッパ的なロードムービーと、アメリカ的なロードムービー......というか「イージー★ライダー」の影響を受けた作品のように思えるのだけれども、どうだろうか。

ところで、このちょっと生意気だがものすごくキュートなアリスを演じたイェラ・ロットレンダーは、他のヴィム・ヴェンダース作品に出演しており、今でも女優業を続け、衣装デザイナーでもあり、大変活躍しているようだ。写真を見たら、現在は、ショートヘアでかっこいい雰囲気だった。
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