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硫黄島からの手紙のwhitelilyのレビュー・感想・評価

硫黄島からの手紙(2006年製作の映画)
3.7
終戦の日が近づく度に観なきゃなと思う戦争映画。普段はよっぽどナーバスな時じゃないと観る覚悟が出来ないのも戦争映画。

灰色の空、モノクロに近い色褪せた映像、鳴り響く爆音と銃声……終始重苦しい映像に心が鬱々する、楽しい映画な訳が無い。それを覚悟で画面に向かわなきゃいけないんだから相当辛いよね、戦争映画鑑賞。だけどこの時期に観なきゃ!って思うのは記憶に留めておきたいから。

太平洋戦争末期、硫黄島において日本軍とアメリカ軍により行われた戦いを描いた作品。周囲の沖合で日本軍の艦隊が次々と壊滅的な打撃を受ける中、米軍本土上陸への最後の砦硫黄島に目が向けられる。両軍共に多くの戦死者を出し第二次世界大戦屈指の激戦地のひとつとして知られる。
クリント・イーストウッド監督の作品らしい、徹底したリアリズム。直視できない場面も多々あって何度も停止ボタンを押した。激戦地で戦う兵士たちが回想する家族への想いはほんの一時の安らぎ、それさえも爆音と銃声に消されてしまう。『帰りたい』想いを口に出すことさえも許されなかった。その本心を手紙に書くことさえも。
傷ついたアメリカ兵と日本兵との交流シーンはこの作品の最大の見せ場だったと思う。戦争の真っ只中で敵味方ではなく人間としてお互いを尊重し合うこのシーンこそ、監督がこの作品を製作した意義ではないかと。

原田マハさんの作品の中で『硫黄島からの手紙』についてディベートをする場面があったな。その中で忘れられない言葉があった。
“この映画は「大きな戦争」の映画ではなく、「小さな平和」の映画だったのではないか?”

私もそう思う。激しい戦闘シーンや多くの殺戮の場面がほとんどを占める作品の中で、やっぱり心の安らぎを覚えたのは仲間たちとのたわいのない会話、ほんの僅かな時間の人との交流、身を案じる家族からの手紙、そして死の間際まで側に置いた家族写真。お国の為に、の言葉の裏で誰もが平和を望んでた。小さな平和を願いながら亡くなった多くの人々がいた時代。しっかり心に刻んで終戦の日を迎えようと思う。
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