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硫黄島からの手紙のabeeのレビュー・感想・評価

硫黄島からの手紙(2006年製作の映画)
3.9
【正しいと信じられることがあれば、それだけが正義】

勝者こそが正義。
正義なんて存在し得ない場所で、何が正しいのかを考えたとき、それはやはり勝者なのかもしれない。

潜在意識の中で、敗者は悪だと思ってはいないだろうか。
人間はそういう風に造られているような気もするし、日本の歴史教育がそうさせているような気もする。

「硫黄島プロジェクト」第2弾。
日本の視点から見た太平洋戦争の最重要局面。
天皇陛下万歳と謳い自らの命を賭けて硫黄島を守る日本の兵士たちの思いを、戦地から祖国に残した愛する人に向けて書いた手紙を通して描く。

正直なところ、私もまんまと「敗者は悪」だと思って育ってきた部分があります。
どうしてもね、特に小中学校の教科書は特にそういう意識が植え付けられてしまうような表現の仕方をしてたような気がするのです(私の記憶の中では)。GHQの情報操作だな、こりゃww

それに、御国のために命を捧げろ、生きて恥をさらすくらいならその場で切腹しろ、なんていうのは自己満足も甚だしいわけで。
日本人の今にも繋がる悪いクセです。
結果も出していないのに、自己犠牲で全てを美化しがちですよね。
そういう働き方は良くないと思います。

それでも。
私が「勝者が正義」だと思ってしまったのと同じように。
教育というものが人を育てるわけであって。
教科書の中で敵は蛮族で自分たちより劣っている、なんて教え込まれたらその世界以外は見えないわけで。
真実は自分の目で見なくてはいけないのです。

加瀬くん演じる清水上等兵はその真実を見る目を惑わせる存在としてとても重要なキャラクターでした。
植えつけられた正義を真実としたまま命を落とした兵士たちの中で、真実を見て自分の正義を貫いてみようとした清水と、その清水の行く末を目の当たりにして惑わされる二宮くん演じる西郷。
そして、大層な正義を掲げる口先ばかりの伊藤大尉。
本当の正義は生き抜いてこそ見ることができるものなのかもしれません。

2部作として、重なるシーンを度々盛り込んだことでアメリカ側と日本側、その両方を客観的に見ることができるのでどちらの正義も正しく、観てる側としてはかなりキツイ作品ではありました。
そういう意味では、「硫黄島からの手紙」を観たあとでもう一度、「父親たちの星条旗」を観ることがこの2作を理解する上で大切なのかも知れませんね。

ということで、愛する人がいて、その人たちにもう一度会いたいと、生きるために戦った全てのものたちは枢軸国も連合国もその軍の垣根も超えて、時代も超えて、讃えられるべき英雄なのでしょう。
だから戦場において生きて帰りたい気持ちだけは皆が同じように持っている正義なのだと、そう思ったのでした。

日本軍が祖国へと「送らなかった」手紙の中にあるものこそが本当の正義なのでしょう。
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