ただのすず

海炭市叙景のただのすずのレビュー・感想・評価

海炭市叙景(2010年製作の映画)
4.1
雪の降らない街にずっと暮らしているからか、
ただただ雪景色が今まで見たどんな色よりも美しくて、
観終わった後、じんわりと鳥肌がたった。

無知だったからこそ
海炭という言葉を調べた時の衝撃が大きかった。
そうだ、こんな都市はどこにもない。
どこにもないのに私と同じ人達がここに生きている。
どこにもぶつけられない遣り切れなさや理不尽を
自分の身の内でぐっと押し殺し諦め受け止める。
そうして雪がしんしんと降り積もっていく。
その上で微笑んで生きていくのだ。

佐藤泰志の遺作。未完の短編小説が原作。
函館を舞台にした架空の都市。

私と同じどこにでもいる存在。
そんな人達の抱えたちっぽけな痛みと幸せを描いている。
見過ごしたくないどうにか噛み締めたいと無性に感じた。
この小説を映画として残したいと感じた人の気持ちが伝わる。
邦画を心から好きだと思った。

一時雪止んだ空のぼんやりと烟るような曇天の色や、
雪のように白くて柔らかい猫の毛並みが忘れられない。
ラストがとても良い。私は好き。

小説は18組の登場人物が織りなすけど、
映画はその内の5組のオムニバス。役者がうまい飽きない。
小林薫と加瀬亮の物語がとくに印象深かった。
そして、雪ととても相性の良い音楽がとにかく美しい、ジム・オルーク。