なべ

死刑にいたる病のなべのレビュー・感想・評価

死刑にいたる病(2022年製作の映画)
2.8
 導入部はおもしろかった。エグ味の強いカットを織り交ぜながら、背景や人間関係を紹介する手際がよくて思わず前のめりになってしまった。
 ところが、雅也が調査を始めるや、急にテンポが悪くなった。説明臭くて、その上奥行きがない。すごく描き方が直線的なのだ。
 こういう底知れぬ犯罪者の心の闇を描く話は、「言葉ではうまく説明できないけどなんかわかる」とか、「覗き込んだ闇の向こうに自分もいそうで怖い」とか、「悪しき圧を終始感じる」みたいな穢れた手触りが不可欠だと思うんだけど、そういう質感がまるでないのな。解釈の余地のないダイレクトな説明台詞が続くと、知能が高いはずの榛村大和が調子こいたアホに見えてくる。それじゃあかんでしょ。
 他にも、「この場面は、もしかしたら自分は榛村大和の息子かも知れないと思い至った雅也が、自らの内に潜む暴力性を開花させるシークエンス」のように演出の意図が、ト書のように読めてしまうくらいあかん描写があった。これは見ていてすごく恥ずかしい。こんな気分を観客に味わわせるのはホント勘弁してほしい。
 事前に見た番宣では、筧井雅也を演じた岡田健史が「“普通”を演じるのが難しかった」みたいなことを言ってたけど、終盤、謎解きをする雅也に「名探偵か!」とツッコんだからね。それくらい普通じゃなかった。Fランク設定はどこへ行った。どんでん返し的な真相も意外でもなんでもなく、心にさざなみひとつ立たないのも困った。もっとちゃんとやろうぜ、ちゃんと。
 設定はグズグズ、謎解きは適当、演技も浅薄。最後のオチも取ってつけたように陳腐で、そっちに行くなら行くで、もっとエンタメに振るか、もっとあざとく展開するか、他にやり様があっただろと思ってしまった。実際、はぁ〜と悪いため息が出たからね。うーん、やっぱり邦画はここらが限界か。韓国映画の抜かりなさを少しは見習ってほしいが、そもそも作り手だけでなく、きちんと批判できない観客にも責任がある。解像度の低い視線で眺めているだけでは、どんどん邦画の平均値が下がる一方だ。最近では「邦画にしてはマトモ」とか「邦画の割におもしろかった」とか「邦画だけど侮れない」なんて、良くないことが既定路線になっちゃってる。ヤバいよね。
 大丈夫か白石和彌!「仮面ライダー BLACK SUN」の出来が心配になってきたぞ。めっちゃ楽しみにしてるのに…。

追記
 老いてなお美しい中山美穂。かがんだ時に空いた胸元を思わず覗き込みそうになったわw
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