大島育宙

死刑にいたる病の大島育宙のレビュー・感想・評価

死刑にいたる病(2022年製作の映画)
3.3
阿部サダヲが怖いのは意外でもなんでもない!
彼はもともと怖いよ!
そもそもコメディ演技の時も目が笑ってない。
今回の役に通底するのは「底知れない過剰なサービス精神」
喜劇をやってる時も異常なサービス精神の裏で体と口角はエネルギッシュにダイナミックに動くのに目は動かないので怖い。
それが「哀愁」や「ひたむきさ」に変わることが多いけど、今回はもっと突き抜けて「恐怖」になったと言うからくり。

思えば『蛇イチゴ』の宮迫博之も
『ディア・ドクター』の笑福亭鶴瓶も
『冷たい熱帯魚』のでんでんも
コメディアンが悪い役を演じるときは必ず
「元々の本人の魅力のエスカレーション」が基本だ。

目が真っ黒で怖い!と言われてるけどそれ以上に
・背筋、体感がブレない
・喋ってる時も口以外動かない
ところがポイントだ。
空間に固定されたかのような眼球の漆黒がそれでこそ目立つ。

しかし一番怖いのは主人公の父だった。
空虚化した家父長制の攻撃性だけを具現化した存在。
後ろに立っていたお父さんに会話を聞かれたのか?
ただビールを2杯注がせてゴキュゴキュと喉を鳴らして飲むだけ。
金山に追割れる場面の幕引きといい、
余計なシーンを無駄に見せ切らない手際の良さが心地いい。

榛村の欲求は具体的な性的欲求ではなく「支配欲」。
肉体的支配から精神的支配への移行の話と思える。
 しかし「冷たい熱帯魚」「ファイト・クラブ」のように
 主人公の世界観そのものに転回が起きてはいないところに
 批評的に語られる作品というよりかはジャンル映画としてのこだわりを感じる。


シリアルキラーについてまとめたサイトを運営していたという原作者のシリアルキラーへの造詣の深さの勝利だ。

脚本の高田さんは片山慎三『さがす』や『僕たちはみんな大人になれなかった』などでも大変な脚本作業をやっていたが、
次世代を担う監督とのタッグで手を抜かないし、意味のある脚色しかしないので信用できる。

〜以下、そんなによくなかったところ〜

・重要な役で演技力が明らかに足りていない人が3人ほどいる。
 役者の魅力が大事な映画でこの割合はおかしい。
 白石監督作品の外連味と言えば聞こえはいいが、、
・終盤の面会室の会話の二転三転は長すぎる。
 興味が持てず、集中力が切れてしまった。
・どうしたって死刑囚崇拝的な雰囲気は古く感じる。


〜その他メモ〜
・爪への執着面白い
・なんでPG12なの??
・音尾琢真の食欲
 主人公も人の手なすけ方を榛村のように覚えていってる