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ある男のmityのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
3.5
他人に成り代わることでしか生きていけない男の姿がそこにあって、あぁなんて容赦がないんだろうと思った。同じ血が流れていることにも、顔が似てきていることにも、過去が纏わりついてくることにも、その全てに苦しめられていて。“自分”でいることが許されないような環境に、否応なしに落とされたが故の生きる為の手段···それが「大祐」だったと知り、もしも命を落とさなかったら、とは考えてしまった。いつかバレるその時がもっとずっと後だったら···「大祐」として歩むはずだった未来は、一体どうなっていただろう。

ただ、その日が少しばかり遅くなったとして、里枝たちの戸惑いは同じだったかもしれないとも思う。突然すぎる死が連れてきたのは悲しみだけじゃない。共に過ごした日々があって、かけがえのない想い出もあるのに、急に夫が「大祐」から「Xさん」になる···。確かに隣に居た筈のその事実すら揺らぎそうな程の衝撃。誰の人生と共に生きていたのかと漏らした里枝に、掛ける言葉なんて見つからないなと思った。

本来の「大祐」については、ほとんど映画では描かれなかったけれど、「大祐」という名前を得た方に事情があるなら、当然捨てた方にも事情はあるはずで。心配してくれる人がいたとしても、その名前では生きていけないような、生きていたくないような事情が。

偶々出会った見知らぬ人の身の上話。それは“あなた”のお話ですか?、ということもあるのだと、映画は教えてくれた。


#128_2022
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