ジャン黒糖

さがすのジャン黒糖のレビュー・感想・評価

さがす(2022年製作の映画)
3.8
監督で観る映画。
今回は片山慎三監督③。

年始に公開されるや早くも今年ベスト級!の呼び声も多く話題を呼んだ衝撃作!

【物語】
中学生の娘・楓と暮らす原田智は、日雇い労働で働いている。
ある日、スーパーで万引きで捕まった彼は娘に呆れながら保護される帰路、連続殺人事件で指名手配されている男・山内照巳を電車で見たという。
収入の潤沢でない智は、その指名手配犯を警察に突き出せば300万円もらえるという話に興奮するが、その翌日、姿を消してしまう。
不安になり捜索する楓だったが、父が働く工事現場で“原田智”と名乗る男に出会うが、その姿はまるで指名手配犯・山内の姿にそっくりだった…。

【感想】
まず、片山監督初のメジャー配給作品ということもあってか、画面ひとつ一つの絵がめちゃくちゃ決まっている。
オープニングの金槌シーン、西成の商店街での追跡、病院の屋上での会話、多目的トイレでの会話、果林島の古い家屋に置かれた3つのクーラーボックス…。
どれも、「あの場面良いよね、強烈だよね」と語れる魅力があり、『岬の兄妹』とはまた違った、商業映画としてきちんと“決まっている”良さがある。

それこそ、ポン・ジュノ監督における長編2作目『殺人の追憶』のような位置付けに感じる。
そして『殺人の追憶』といえば今回、西成での追跡劇も良かったね〜。


また、今回脚本に高田亮さんはじめ、何人かクレジットされていることからも、脚本にも複数名の手が加えられていることがわかる。

本作の場合、構成としては3幕+エピローグとなっている。
1幕目は予告編にもあるとおり、シングルファーザーである父の姿を“さがす”娘の話。
2幕目は少し遡って連続殺人犯・山内が次のターゲットを“さがす”話。
3幕目はさらに遡って、失踪した父が、愛する家族との人生のあり方を“さがす”話。
そしてこの3人それぞれの“さがす”対象を見つけた先に、物語最後へと集約されていく。

そして、この三者三様の“さがす”とは、まさに片山監督のこれまでの作品に共通する、“自分を認めてくれる人物の特別感”、自己承認を欲求する、さがし求める行為を指し示していて、映画タイトルそのものがある意味片山監督の扱うテーマ性そのものを表していると思った。


また、商業性を増した点として、各登場人物のキャラクターもグッと見やすくなったし、これまでの片山監督作品同様、各登場人物たちには、滑稽さのなかに人間のヤダみとほっとけなさが見え隠れしており、良かった。

たとえば主人公・楓に告白する同級生の花山くんは、楓の周りで起きている事件は凄惨にもかかわらず中学生男子らしく、好きな子に夢中のあまりシリアスな展開のなかでつい笑ってしまう。
卓球場での鼻血シーン、令和になってこの描写が観られるなんて思わなかった…笑

また、自殺願望のある女性“ムクドリ”なんかも、「うわ、、こいつにここまで言われたらキツいな…」という、嫌な性格の女性で彼女もまたいい。
クレジット観るまで気付かなかったけど、演じていたのは「全裸監督」で黒木香さんを演じていた森田望智さんだったんですね!!役者すげー、、!!

そして特に物語の中心人物、楓と智と山内。この3人が特に良かった。
佐藤二朗さんはコメディ演技の印象が強いけれど、本作で奔走・翻弄される中年男性の役を見事演じられていて、彼のユーモアがあるからこそ、話そのものはシリアス、スリラーなのにどこか常におかしみを保っていてさすが。


そして、楓を演じるのは吉田恵輔監督作『空白』で亡くなった女子中学生役も記憶に新しい伊東蒼さん!
万引きした末に事故死する役柄ということもあって、冒頭お父ちゃんが万引きで捕まったスーパーに向かうために街を走る場面なんか、観ていて「轢かれないで!」とヒヤヒヤ連想してしまった。

また、彼女の心地良い関西弁と、常に少し困ったように眉を曲げる表情、意思の強さなど、主人公として真っ直ぐさに溢れていて良かった。
これまでの片山監督作品は、どちらかといえば“あっち”側の人間、つまり山内のようなモラル、法規制においては“アウト”な人物が主人公であった。
ただし、今回、失踪した父の本当の姿を追い求める彼女は、最後まで“あっち”側とは線を引いている。
それゆえ、卓球でラリーをする場面が何を示唆している内容かを考えると切ない気持ちになるけれど、これまでの片山監督作品とは違い、“正しさ”のなかできちんと“さがす”ことができたことも意味する。
これまで以上に明確に正しい余韻を残すラストだった。


また、“名無し”こと連続殺人犯の山内を演じる清水尋也さんは、印象的な顔立ちと、「インベスターZ」のような世界観の強いドラマでもちゃんと説得力を持って見せてくれる演技力も相まって、今回の役どころもまた最高だった。
「それは、有料コンテンツでしょ」という言い方、生き死に対して冷めていながらサバイブする気持ちの強さ、彼の犯行の目的、など恐ろしかったなぁ。。

ただ、ちょっと消化不良を挙げるとすれば、彼にはあそこまでサイコである必要性はあったのだろうか、やや疑問が残った。
人物の掘り下げという点においては吉田恵輔監督『ヒメアノ〜ル』で森田剛さん演じる"森田"の方がしっかり怖いし、彼の孤独さを想うと胸が詰まるが、"山内"は若干それが弱い気がした。

今回、3人の視点によって物語が進む分、彼のパートでなくなって以降、終盤の展開まで連続殺人犯としての残忍性が若干霞み、果林島で出会った老人の部屋の向こうを見たときの唖然っぷりが個人的にはこの映画のヤバさのピークだった。。なんだありゃ、、笑
たとえば、彼が東京にいるときに自宅にあったクーラーボックスに入っていた“アレ”をめぐる描写は誰の"アレ"だったのか、背景とかがわかると彼の残忍性がより生々しくなって良かったのでは、と思うんだけれど、同時に商業性を保つためにはこれが限界かも、とも思う。

ただ、後半で描かれる3つのクーラーボックスの描写は良かったなぁ。
殺された遺体が入っていると思われるボックスと、これから殺される人が入れられるであろうボックスと、もうひとつは…自分…?と見せかけての、山内と、とある人物の実は特別な関係性を示していたことがわかる見事な伏線回収。




このように、ロケーション、物語構成、各登場人物など、商業映画としてかなり見やすくなった印象。
特に、比較的近年実際に起きた事件を連想せざるを得ない内容も多分に含んだ話でありながら、1本の映画としてめちゃくちゃ面白く観てしまっている時点でこの映画やっぱすごい。

SNSで自殺願望のある人と連絡して自分の家に来てもらい殺害した後でクーラーボックスにしまうという残忍極まりない反抗は座間の事件を、島に逃げる犯人が得たお金を使って国外逃亡または整形することを企てる計画はリンゼイさん殺害事件を、そして安楽死を望む人のための嘱託殺人は京都で起きた事件を思い出さずにはいられない。
これらは全てここ15年も経っていない、近年に起きた事件だ。

見事グイグイ引っ張られて観てしまったが、この映画で描かれているような出来事が実際に起きてしまっているのが現実。
そうなったときに、自分たちは劇中描かれる彼らの行動を赦すことはできるのだろうか。

脳内で卓球場でのラリーの音が鳴り続ける。
すごい映画を観た。
願わくば、監督次作では、今回のような商業性は保ちつつ、より『岬の兄妹』の時のように、監督自身のやりたいことをそのまま映画に反映された作品を観たいなぁと思った。
ジャン黒糖

ジャン黒糖