たにたに

リフレクションのたにたにのレビュー・感想・評価

リフレクション(2021年製作の映画)
3.7
【見えない壁】2022年94本目

ウクライナの首都キエフはロシア語表記であり、キーウに表記を変えるという日本政府の決断が記憶に新しい。

主人公の男はキーウで従軍医師をしていたが、2014年のクリミア侵攻の余波で活発化した東部戦線で、親露派の捕虜となってしまう。

ロシアに隣接する人民共和国"ドネツク人民共和国"と"ルガンスク人民共和国"。この東部2都市が、まさに現在ロシアからの侵略戦争の場となっている。

現在の東部戦線では、本作のような卑劣な行為が行われているかもしれない、いや、それ以上のことが。ウクライナの今を知り、そして我々ができることは何かを考えるきっかけになるはずだ。


今作は同監督の"アトランティス"と比較して、かなり痛々しいシーンが多い。
捕虜となった医師への拷問や、殺害シーンなどをモザイクを交えて描写する。

映画ポスターにもなっている"父娘"の関係性を深掘りするには、作中の対話がごく少なく、難しい。
無言で食事をとるシーンからわかることは、お互いの気まずさでしょうか。
アトランティスに引き続き、構図をきちっとした表現をとり、特に窓へのこだわりが強く感じ、食事シーンでも昼の明るい真っ白な窓が目に飛び込んでくる。
この窓にぶつかって、鳩が息絶えるというシーンが続き、タイトルとなる"リフレクション"へと話が進んでゆく。

娘が「どうして鳩は窓にぶつかったのか」という質問に、父親は「窓に映った(リフレクションした)空に向けて飛んだんだ」と答える。

ウクライナ人にとって、人民共和国という存在はいったいどういうものなのか。
地続きの先に隔たりがあり、母国なのに踏み入れない場所がある。飛んでいきたいその先には、透明な壁があり、気づいた時には眼前が暗くなっている。

窓を拭いたけど、その跡が残っているそのシーンに、拭いきれないもどかしさや、やりきれなさを感じる。

希望はあるのか。
ウクライナの今を感じる。
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