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リフレクションのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

リフレクション(2021年製作の映画)
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                  消せない記憶

ドンバス戦争10年後の2025年を描いた「アトランティック」(2019年)を以前観て、そこに至る前の2014年のウクライナを同監督がどう表しているのか知りたくて観ました。しかし途中退席しようかと考えたくらい拷問シーンがキツかったです。キツかった。記憶から消したい。キツいシーンは目をつぶったのですが、長回しの映像に加えて、音声も心をざらつかせる不快音、破裂音、響く音でした。目と耳から地獄を体験しました。

ウクライナの軍医がドネツクの占領地に迷い込み捕虜となり、地獄を見てしまいます。外科医だったため、拷問した捕虜の生死を判断することを担わされます。生きていれば死ぬまで苦しむ姿を見せられるのです。

捕虜交換で釈放されても、外科医の心が晴れることはありません。別れた妻の再婚相手が拷問死したことを知っていても敵による脅しで口封じされていたから。元妻と娘に危険が及ばないようにしなければならないが、二人は夫の安否を心配し釈放を心待ちにします。

窓がモチーフでした。
窓から見える
子どもたちのサバイバルゲーム、
瀕死の兵士の救命、
ドライブインシアター、
迷う車の道、
消却炉の炎、
街、
様々な窓に映る出来事。
そして心の窓についたものを拭き取ろうとしても記憶は消えない。

いちばん印象的だったのは、マンションの窓からの街の夜景。
今もこの街は無事なのだろうか。
祈らずにはいられませんでした。

2014年のドンバス戦争の兆しを描いたものです。

タイトルはウクライナ語では「反射/反映」ですが、英語のreflectionには、反射、反映以外に、沈思、兆し、非難の言葉があります。

家族の歩く足音は永遠に記憶に残したい幸せな音だけど、不快な音も永遠に刻み込まれました。映画の観客は目と耳だけですが、そこにいた人びとは視覚、聴覚以外に匂いや触覚の五感全部で狂気を吸い込み記憶されてしまった。消しても消せない。

ドンバス戦争で拉致誘拐、拷問、殺人等、人道に外れたものだと国際的に非難を浴びました。ドネツクだけでなく、ウクライナ側も。戦争に人権問題ってなんだろう。戦争そのものが人権を犯すものでは?
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