Taku

幻滅のTakuのレビュー・感想・評価

幻滅(2021年製作の映画)
4.0
傑作。権力闘争の道具としての批評とその根底にある金欲、それらに埋没していくジャーナリズムや芸術。古典だが普遍的な物語。主人公とその恋人の金に対する反応の違いや、主人公を取り巻く貴族女性の描写から、女性の強かさをさりげなく浮かび上がらせているところも面白い。

他のユーザーの感想・評価

虚飾に塗れた金。金。金。こき下ろし、褒めちぎる。手首に関節が無いんじゃというほど掌がクルクル回る。評判のコントロールで金をむしり取るのがジャーナリズムの真髄ではないかと思わされる。

田舎の純朴な青年が文才を買われ、身に余る成功で栄華を極め…。この先はもう言わなくてもわかるよね。みんなが大好きなやつです
19世紀前半のパリで繰り広げられるマスメディアの世界。
それは嘘と欲、虚飾にまみれるものだった。
フェイクニュースにステルスマーケティング。
今と何ら変わらぬ世界。
これは面白かった。

田舎者で純粋だった文学青年がどんどんと深みに嵌っていく姿がとても憐れ。

俳優として出演しているグザヴィエ・ドランの語りも良し。
1in10

1in10の感想・評価

4.2
Fan's Voice主催のオンライン試写会にて鑑賞。

宮廷貴族と腐敗したメディア社会に虚栄を魅せられた詩人。

美しく豪華に作り込み、再現された時代観と映像美にひたすら没入してしまう。
衣装や美術もそうだけど、被写界深度が浅かったり、レンズへのこだわりまで感じられる。

フランス革命などを経て、ナポレオン政権下のフランスが舞台だけど、現代にも通ずる普遍的な対比もあり、
煌びやかだけど、自由さに溺れていく切ない物語で、目まぐるしい激動の喜劇だった!

グザヴィエドランが思いの外活躍してて、その存在感をまた発揮してた。
豚肉丸

豚肉丸の感想・評価

4.3
900本目

詩人の青年が夢見てパリに上京するが、汚い現実に呑み込まれていく...というお話

2時間半という長尺とあまり興味の湧かない題材で見る前は不安になったものの、見始めたら19世紀のフランス版ウルフ・オブ・ウォールストリートという感じの内容で意外と楽しむことができた。
重厚な文芸ドラマだが、テンポの良い編集と軽快な語り口で物語もテンポ良く進むため2時間半の長さもあまり感じず、しかもしっかりと2時間半分の重厚感はある。

野心を抱えた詩人の青年は売れるためにパリに上京するが、そこで目にしたのは予想だにしなかった汚い現実と息苦しい貴族社会。金とコネで物事も何もかも移り変わる世界に最初は翻弄されるも、次第にそれに順応していく主人公の姿が痛々しい。
文芸評論にも演劇の拍手にも、全てに金と陰謀が蠢いている。敵対する相手にはどんな内容であっても酷評を書き綴る新聞業界。詩を書くことで鍛えられた文章力と語彙力は、如何にして相手を貶められるかの皮肉合戦に移行する。そしてそんな世界の中で、主人公は徐々に安定した地位を築いていくのだ...

忖度で出来上がった批評社会の構造も嘘と金とコネで書かれるニュースメディアも、まさに現代の社会と地続きで繋がっているのが面白い。
最後の展開も妙に皮肉めいており、最後まで飽きることなく楽しむことが出来た。
ビジュアル的にもあらすじ的にも地味な印象がしてあまり興味は湧かなかったが、金とコネと酒と馬鹿騒ぎが詰まった19世紀のフランス版ウルフ・オブ・ウォールストリートのような映画でなかなか面白かった!
lololo

lololoの感想・評価

3.6

このレビューはネタバレを含みます

1820年代のパリってあんなに情報戦えげつかったの…?新聞の批評家の買収、劇場でヤジや拍手のサクラをまとめるヤジ屋、新聞社同士の買収合併…。

そんなドロドロで華やかな渦の中に飛び込んだ、詩を愛する青年の繁栄と衰退。物語は正直王道でそこまで真新しくはないし、予告編で大オチの“婚約者の初演にヤジ屋が裏切る”を察する場面が出てくるので肩透かしではある。

でも、男たちを中心に繰り広げられる世論操作工作、腹の探り合いの描写がすごくて、もはやドキュメンタリー観てる気分だった。

衣装や劇場や社交の場の華やかさにも圧倒された。

出てくるセリフひとつひとつが美しかったな〜。最後に明かされる、この映画の物語がナタンの書いたものっていうことだからだろうか。

「パリはスカートをたくし上げ 若き詩人に巨大な裸体を見せつけた」
「もっともらしいことはみな真実」
「美男子ね、傷付けられそう」
「あなたの名前はひとつよ、私の愛しい人」
とか…。

主演は『Summer of 85』で観たことのあるバンジャマン・ヴォワザンで、あの映画ではちょいワルイケイケ男子だったのが、『幻滅』では完全に繊細でへにゃへにゃな文学青年とイキり散らし青年を行き来してて見事だった。
とし

としの感想・評価

3.5
2023年3月15日
映画 #幻滅 (2022年)鑑賞

身分制が根強く残る19世紀のフランスを舞台に、田舎から夢を抱えて
パリに出てきた青年が、ゴシップにまみれた仕事に手を染めていきます

ゴシップ系YouTuberとかいる現在と基本的なことは変わらないな

@FansVoiceJP さん試写会ありがとうございました
ei

eiの感想・評価

4.0
試写にて。
野心を抱え、文学を愛す“うぶ”な青年がパリの虚偽に塗れた狂騒にのまれ、幻滅していく。貴族の仮面の裏の顔、金に物を言わせ、尊厳をも売り飛ばすジャーナリスト。無垢な野心と愚かとも言える純粋さが故に踊らされていく主人公…見応えある人間喜劇に大満足。それにしてもバンジャマン・ヴォワザンにヴァンサン・ラコスト、グザヴィエ・ドラン…の勢揃いは絵力が強すぎて。
面白い
19世紀パリ、野心を持ちショービズ界へ飛び込んだ詩人の青年を中心に展開される悲喜劇
演劇とその批評に政治や身分といったしがらみが絡み、更にそこにロマンスが…という話を2時間半でタイトに見せていく

狂言回しかつ主人公の鏡像であるグザヴィエ・ドランも好演
【常に悪人が上り詰める】


※fans voice様のオンライン試写会での鑑賞




ジャック・リベット監督の「美しき諍い女」の原作者で知られる"オノレ・ド・バルザック"の小説「幻滅 メディア戦記」を、「偉大なるマルグリット」の"グザヴィエ・ジャノリ"監督が映画化したものだ。

まず鑑賞した感想として、これは日本の若者も観るべき、1人の若者の"世渡り物語"だなと感じた。イメージとして、私は最初雰囲気からして「華麗なるギャツビー」を思わせたのだが、中身を開けたら詩人版の「ウルフ・オブ・ウォール・ストリート」であった。
いわゆる、1人の世間知らずな若者の"慢心による成功"から"欲に塗れすぎて失敗し、幻滅"するまでを描いた、"栄枯盛衰"の物語であった事だ。
欲に塗れすぎるとどうなるかが分かる"教訓的"な内容も入ってたし、当時いわゆる"19世紀フランス"の豪華絢爛ぶりも見ることができる、まさによりどりみどりな内容となっていた。

主人公"リュシアン"を演じた"バンジャマン・ボワザン"の"凛々しい顔"を利用した演技がとてもリュシアン自身の"光と影"をよく見分けられる事ができ良かった。
それに、リュシアンと対照的な存在である"ナタン"を演じた皆さんご存知"グザヴィエ・ドラン"の存在感も半端なかった。リュシアンを付け狙う"エティエンヌ"を演じた"バンサン・ラコスト"の演技も良かった。

とにかく物語の背景もキャストもとても豪華なので、それだけでも観る価値はあると思う。それに、人生の教訓的なのも凄い描かれていたので、若者の人生の勉強の道具としてもピッタリな"セザール賞"受賞作であった。

オンライン試写会にて。

古風で窮屈なフランス芸術作品?
いえいえ!
ドラマチックで飽きない19世紀の豪華な栄枯盛衰エンタメでした!

名優揃いで2時間半はあっという間、素朴な青年が成り上がり罠にハマって幻滅する姿を堪能できる。

コレはおススメ!
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