マギー・ギレンホールの初監督作品。
ギリシャの海辺をバカンスで訪れた48歳の女性レイダが、とある母娘との出会いによって、とある自分の過去に向き合わされる。
"I'm an unnatural mother."
マザーフッド映画の秀作。子育てに関して苦い過去を持つ中年女性の心理サスペンスドラマとして興味深かったし、母親という存在についても考えさせられた。
本作が面白かったのは、主人公が現在でも過去でも決して"正しい"人間ではないのにも関わらず、彼女の気持ちに深く寄り添えたこと。嘘偽りない等身大の人間の姿に魅力を覚え、物語に引き込まれた。
主人公が母親業を放棄し、一人の女性として生きる選択したことに対して、100%賛同できた訳ではなかったが、仕事、家事、子育てに追われて窒息寸前となり、母親業の呪縛から解放されたくなる気持ちには少なからず共感できた。母親の愛も決して無限ではない。
なぜ人形を盗んだのか。一度我が子を捨てたことへの罪悪感から来る出来心、忘れたくても忘れられない嫌な過去を思い起こさせる若い子育てママへの腹立たしさ、幼い子供と一緒に過ごしている若い子育てママへの嫉妬心などが原因だろうか。
マギー・ギレンホール監督。処女作でこの完成度は凄い。今後にも大きな期待が持てる。先の読めない脚本と、映画的語り口が好みで、目が離せなかった。現在と過去が交互に語られていく構成なのだが、形式張っていない。ハンドカメラと顔のアップショットを多用しているのが特徴。浮遊感があるというか、どこかふらふら彷徨い歩いているような印象を受けた。
女性監督が撮る女性描写に衝撃を受けることが少なくない。本作の劇中にも、それをはっきり映すんだ、それをはっきり口にしてしまうんだ、みたいな驚きがいくつもあった。異性を見る目と同性を見る目って違うんだなとつくづく思うし、改めて映画って面白いなと思う。
主人公レイダ役のオリヴィア・コールマンとジェシー・バックリーの演技が素晴らしい。脇役も豪華。子育てに苦しむ若い母親役にダコタ・ジョンソン。仕事も子育ても引退した島の住人役にエド・ハリス。休暇中のリゾートバイトでやって来たダブリン出身の大学生役を、本作が映画デビューとなったポール・メスカル。
"Livin' on a Player"♪
「子育ての責任って人を押しつぶすのよ。」
「子供のいない暮らしは、最高だった。」
"What did it feel like without them?"
"It felt amazing."
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