10円様

パワー・オブ・ザ・ドッグの10円様のレビュー・感想・評価

パワー・オブ・ザ・ドッグ(2021年製作の映画)
3.6
 ジェーンカンピオンが10年以上の沈黙続けた後発表した本作。アメリカでは評価が高くアカデミー賞に何らかの形で絡むのは確実かと思われます。私はカンピオン監督の作品は「ピアノレッスン」しか印象に残ってないんですよね〜まあ、あちらも淡々と進んで行く物語であったのですが、端々に人種問題だとか情事だとかの描写があり、協会が好みそうな類いの作品だなと思いました。
 そして今作も物語は淡々と進みます。さして大きな抑揚も無く、あっと驚く展開があるわけでも無く、かといって芸術志向に走った支離滅裂さがあるわけでもなく、言ってみれば「普通」なんです。「普通」の物語が淡々と流れているだけなのに、魅入ってしまうのはなんでだろう…

 ピアノレッスンを考えれば、きっとこの物語はフィルとローズの不倫もの?って予想してしまうのですが、終始そのような感は全くありませんでした。ベネディクトカンバーバッチのキャラクター作りが練り込まれていて、ある一団から外れたとてつもないカリスマ性の持ち主という事が伝わってきます。ベネディクトの演技は言うまでもないのですが、フィルの弟のジェシープレモンズも中々でした。最近よく見る役者で、小悪党が似合いますが、本作はただただ優しい男で容姿も全く似ていない事から、この兄弟の間には大きな壁があるのだなと、その画だけで伝わります。
 ローズ役のキルスティンダンストの10年以上前から変わらないおばさん顔もようやく実年齢に追いついてきたようだし、ピーター役のマクフィは好青年な出立ちながらもどこかサイコパス感があるところも作品を引き立たせました。確かに、こうも極端なキャラクターの人物相関を見ていると、どう転がるか分からないという期待感はあったのですが、いかんせん、動機となる部分の演出が弱くて、「えっ?それが理由」「どれが動機だった?」と納得できない部分は多々ありました。映画を見終えて解説を読んで、「あの場面か…」と理解できるくらい、鑑賞者にリテラシーが求められる映画なのは間違いないです。

 それでも魅入る事ができたのもやはりあの広大なモンタナの風景を背後に展開される、「ノマドランド」でも感じた自然の人間の融和が上手く行っていたからではないでしょうか。万人受けは難しい映画ではあると思いますが、現代社会にも通じる人間関係が盛り込まれていた点は良かったと思います。
 ただオスカー作品賞を獲れるかと言ったら「ノマドランド」に比べるとパンチの弱さが否めませんでした😓

 追記
 ゴールデングローブ賞ノミネートが発表されましたね!しかも最多7部門!ジェーンカンピオンも監督賞にノミネートされ本戦に行くのは確実かな?なんらかの形で関わると言いましたが、うーん、大穴くらいにはなりそうな気がします。ただ今年のオスカーレースはポールトーマスアンダーソン対ケネスブラナーの戦いになるとは前から思っていましたので、そちらが健闘してくれると嬉しいです。ドライブマイカーもノミネートされてましたね😊
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