CHEBUNBUN

鬼が笑うのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

鬼が笑う(2021年製作の映画)
1.7
【半田周平の怪演に注目】
映画祭シーズンである。イメージフォーラム・フェスティバルと同時にSKIPシティ国際Dシネマ映画祭にも精を出してんやわんやである。さて、先日TwitterでSKIPシティ国際Dシネマ映画祭のことをつぶやいたら『鬼が笑う』関係者と思しきアカウントから執拗にいいねが来た。これは私に観て欲しいのだろうか。通常はそういうのは逃げてしまうのですが、乗ってみることにしました。

日本のインディーズ映画、それも閉塞感を扱った映画で不幸を並べただけの回転寿司映画が散見される。不幸が密接に繋がっておらず、ただ意識高い様子をアピールされると観ていて辛くなる。残念ながら『鬼が笑う』もその流れに乗ってしまっている。

節分。家族が豆まきをし太巻きを食べているところにDV父が帰ってきて暴力を振るう。鬼が帰ってきた訳だ。その暴力から守るように兄・一馬(半田周平)は父を殺害してしまう。映画はその後を描く。更生保護施設管理の下スクラップ工場で働くことになる。そこは暴力と搾取が渦巻くどん底のような空間だ。そこにヴェトナム、ブラジル、中国から労働者がやってくる。出稼ぎ労働者である彼らは早速、イジメの対象になる。

工場一体となって徹底的に暴言と搾取を繰り返していくのだ。一方、一馬の過程はめちゃくちゃだ。稼いだ僅かなお金でアルコール依存症の母に肉じゃがを作るが拒絶され、仕舞いには新興宗教にのめり込む。妹からも拒絶され続け、自分の殺人は何も救わなかったことと対峙せざる得なくなる。

自分の存在意義が失われていき、心が壊れていく様子が2時間かけて描かれる。だが、殺人、新興宗教、DV、外国人労働問題が噛み合っておらず、ただ羅列されただけのように見える。まだ、精神が壊れた主人公が外国人労働問題と対峙して、徐々に主人公が殺人を犯した過去が明らかになり、内なる暴力が悪を成敗する方が不幸の繋がりはあったと思う。ただ、そのような演出を避けようとするあまり羅列になってしまっている感は否めない。

それでも本作には良かった部分がある。それは半田周平の演技だ。しょぼくれた男が急にニカっと笑いながら正義を振りかざしたり、土下座して泣き始めたりと本当に精神が壊れてしまった者の世界をダイナミックに魅せてくれた。怖くもあり悲しくもなった。そして彼の演技に勇気をもらったのも確かだ。彼は今後注目したい俳優である。
CHEBUNBUN

CHEBUNBUN