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ベルファストのedge5sssのレビュー・感想・評価

ベルファスト(2021年製作の映画)
4.0
舞台は1969年8月、アイルランドのベルファスト。
ごく普通だった家族の生活が、ある日突然、紛争の暴力によって切り裂かれてしまう瞬間を少年の目を通して描いた、ケネス・ブラナー渾身の自伝的作品。

プロテスタント暴徒によるカトリック住民への攻撃は同じ通りで暮らしていた人々の間に命の境界線を引く。9歳の少年バディにはその事態の深刻さがまだ分からない。学校へ行き、映画を観て、好きな女の子に気を取られている。その幼い時間のすぐそばへ、大人たちの抗争が容赦なく入り込んでくる。

ケネス・ブラナーは、この映画で、紛争の残酷さや原因を説明することより、失われる直前の故郷を記憶し直すことを選んだ。
祖父母との会話、家族で出かける映画館、近所の人々が行き交う通り。こうした断片には懐かしさがあるが、懐かしさだけで画面を包んではいない。昨日まで普通だった場所が突然よそよそしくなり、顔を知る者同士が敵味方に分けられていく。その恐ろしさと儚さが、少年の思い出の中から浮かび上がる。バディが友人に引きずられて略奪へ加わり、母まで騒動に巻き込んでしまうくだりが印象的だ。
紛争は無垢な子どもすら安全な場所へ置かない。遊びの延長で踏み込んだ暴力が、家族全体へ跳ね返ってくる。

一方で、北アイルランド紛争を扱う映画としては、政治的背景を平らにしすぎているとも感じる。同じ土地に暮らしてきた人々が、なぜ互いを殺すところまで追い込まれたのか。その構造への批判は深く掘られず、加害と被害の差も少年の記憶の中へ溶けてしまう。ただ、それを単なる逃避とは言い切れない。ブラナーにとって、分断の両側にいたのは抽象的な勢力ではなく、身近だった人々なのだろう。どちらか一方に立って過去を裁けない距離感が、この映画の弱さであると同時に誠実さにもなっている。

安全を求めて町を離れることは、合理的な決断である。しかし家族にとっては、祖父母や友人、初恋や遊び場まで含めた自分たちの歴史を捨てることでもある。紛争の全体像を語り切る作品ではない。それでも、ごく普通の家庭が突然その渦へ巻き込まれ、故郷を手放さざるを得なくなる辛さを、抑制されたタッチで描き切った。その切なさが結末に重みを与えている。傑作。

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