エディ

叫びとささやきのエディのレビュー・感想・評価

叫びとささやき(1972年製作の映画)
4.2
裕福な家庭に育った3人の姉妹と一人の召使を描くことで、表面的な態度とその奥に潜む心の闇を見事に描き出したベルイマン晩年の作品。
ベルイマンの主題とも言える「語らぬ神との葛藤」はこの映画のテーマではなく、「うわべの幸せに潜む心の叫び」と、「うわべは不幸だが平安な心を持つ」それぞれの4人の女を対照的に描くことで何が幸せな人生なのかと問いかけている。ベルイマンにしては判りやすいテーマな上に色彩の美しさに惹かれる。

時は19世紀末。貴族のような大邸宅に住んでいた3人の娘たちがこの映画の主人公である。一番上の姉カーリンは年が離れた外交官と愛のない結婚をして、うわべは上流階級気取りだが不幸な人生を歩んでいる。一方、一番下の妹マリーアは有能な事業家と結婚しそれなりに幸せだったが、マリーア自身が子供のままで良くも悪くも本能的に生きている。そんな対照的な姉妹に挟まれた次女アングネスは40歳近いのにいまだ未婚で、両親が残した大邸宅で召使アンナとひっそりとい暮らしていた。

そんなアングネスが子宮がんを患い余命いくばもなくなったことで3姉妹が再会する。全く違う気質と生き方をしてきた3姉妹は表面的には仲良く振舞うが、おのおのの心には深い闇が潜み、ある者は身内の姉妹ですら憎悪しているが、ある者は何も知らず平安な幸せを噛み締めていた。。。

ベルイマンの作品は宗教的で難解はテーマが多いが、この映画は比較的わかりやすいテーマの気がする。それは、「見た目の幸せさか、心底の幸せさか」「叫びは心のどこから出てくるのか」といったことではないかと勝手に考えている。

全く違う性格ゆえに3人は仲が良さそうだが実は憎悪している。といっても憎悪し合っているのではなく、勝手に憎悪している者とそれを知らずに好き勝手に生きている者、それを知らずに「みんな仲良くて幸せだな」と喜びに満ちて日々を過ごしているもの。

映画では、人の憎しみが反射するほか、疑心暗鬼のささやきが部屋中に響き渡る。

いじわるでメンヘラ気味なカーリン、無邪気すぎ能天気で軽薄なマリア、純心過ぎて婚期を逃したアングネス・・・、姉妹といえどもその後の人生で全く違う性格や価値観になってしまった3人だが、この映画の真の主人公といえるアングネスは、純粋で美しい心で全てに感謝する。そして、単なる召使という立場を超えてアングネスの良く理解者であるアンナは全てを冷静に観ている。

姉妹の死に際に駆けつけた、一見すると仲が良い姉妹だが、実は心の奥底ではそれぞれが腹黒い。人に媚びる態度や微笑が憎憎しい。

こんな複雑な人間模様を、この映画は生なる世界は「赤と白」、死後の世界は「黒と白」という具合に、赤、白、黒を基調とした色彩で見事に表現している。この色彩が雄弁なのだ。とてもシャープで心に突き刺さる。さすがベルイマンというほかない。彼が「第七の封印」など全ての作品をカラーで撮ったら、どれだけ感動度合いが高まったかと思ってしまう。

人の表面的なものと、心に潜む深層心理などは、代々受け継がれてきた邸宅が記憶を再現してくれている。そう、この映画は主人公たちだけでなく、邸宅の調度品の色調ですら表現をしてくれているのだ。

タイトルの「叫びとささやき」とは、劇中ラストの「叫びもささやきもかくして沈黙に帰した」というナレーションから取られたのだと思うが、邸宅と4人の女たちが表面的なモノとその奥に潜むモノをつぶさに見せてくれる傑出した映画だと思う。