SatoshiFujiwara

叫びとささやきのSatoshiFujiwaraのレビュー・感想・評価

叫びとささやき(1972年製作の映画)
4.5
「映画史」冒頭で葉巻をふかし、タイプライターを打ちながらフランス語でその映画名を呟くJLG。「Le Lys brisé」(散り行く花)、「La Règle du jeu」(ゲームの規則)、そして「Cris et chuchotements」(叫びとささやき)。

JLGのせいで随分前から頭の片隅にへばりついていた「叫びとささやき」という名前。TSUTAYA発掘良品で見かけたのでなんとなく手に取る。これがわがベルイマン観(基本退屈)を覆すほど「刺さった」。ここには観念的なベルイマンはいない。というよりも、聖性と肉の相剋、というベルイマン的主題が映画的表現の生々しさと肉体性にいつも以上にガチで直結している。

赤と白のとにかく薄気味悪いコントラスト(フェイドアウト画面が決まって鮮血のような赤だ)とシンプルゆえに気味悪いタイトルバックでの鐘もしくはグロッケン(?)と時計の秒針の音(大体において当作、音響がやたらとリアル)。ショパンとバッハの使い方(特に後者。リヴ・ウルマンとチューリンの和解に向けての取ってつけたような情熱的ダイアローグーしかし声は消されているーに流される無伴奏チェロ組曲第5番)。頻出する顔のクローズアップの空恐ろしい迫真性、よく分からない視線の動きや正面からの捉え。題名通りの「叫びとささやき」のまとわりつくような、あるいは突き刺さるような力。カラーでも当たり前のように素晴らしい画作りを見せるスヴェン・ニクヴィストのカメラ。リヴ・ウルマン、イングリッド・チューリン、わけてもハリエット・アンデルセンの凄絶さ、目を背けたくなるような生々しさ。すべてが圧倒的というしかない。ベルイマンのすごさにようやくいくらかは気付いた。いよいよ開眼か。
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