果糖

叫びとささやきの果糖のレビュー・感想・評価

叫びとささやき(1972年製作の映画)
5.0
家庭内不和という近代以降の病理をテーマにした作品は様々な媒体で量産され続け、もはやいち人生の全てを消費に当ててもカバーできる範囲は限られてくるがそんな玉石混淆な作品群のうちで、本作に触れる機会に恵まれてよかった。

画面を満たす赤色になんの象徴的意味を見出ださずとも、登場人物たちの交わす互いを刺すような会話の鋭さに戦きながら浸ればよいし、解釈で遊びたいならばいくらでも想像力を拡張していける懐のでかさ、そして充実しきって張り裂けそうなルックのことを幾度でも思い返し、見返せばよい。

こんなにつらいならもう死ぬしかないなとなり結局死んでからも死んでからで追求は止まず、極限まで追い詰められ虐め抜かれる精神。陰惨というレベルを越えてもはや聖性が宿っている。この映画が神秘的なのは、単純に死者が甦るからではない。

そんな徹底されたマゾ性と均衡するでかい愛が緊張をよぶ。あらゆる問いに回答はなく、ただただ引き裂かれた世界がある。本当に観た甲斐があった。
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