名付けようのない踊り
犬童一心監督
2022年公開
【Story】
1966年からソロダンス活動を開始し、1978年にパリ秋芸術祭で海外デビューを果たしたのをきっかけに、世界中のアーティストと数々のコラボレーションを実現してきた田中泯。
そのダンスの公演歴は現在までに3000回を超える。
映画『たそがれ清兵衛』(02)から始まった映像作品への出演も積み重なり、これまでのフィルモグラフィーには、ハリウッドからアジアまで多彩な作品が並ぶ。
そんな独自の存在であり続ける田中泯のダンスを、
『メゾン・ド・ヒミコ』(05)への出演オファーをきっかけに親交を重ねてきた犬童一心監督が、
2017年8月から2019年11月まで、ポルトガル、パリ、東京、福島、広島、愛媛などを巡りながら撮影。
この間に田中泯は72歳から74歳になり、3か国、33か所で踊りを披露した。
その道中を共にするのは、ドラマーの中村達也、音楽家の大友良英、編集工学者の松岡正剛、ハンガリー人ヴァイオリニストのライコー・フェリックスなど豪華な顔ぶれだ。
同じ踊りはなく、どのジャンルにも属さない田中泯の〈場踊り〉を、息がかかるほど間近に感じながら、次第に多幸感に包まれる―― そんな一本の稀有な映画を、ぜひスクリーンで体験して欲しい。
(本作品のサイトより)
【Trivia & Topics】
*凄い人がいるよ。
おそらくほとんどの人は田中泯の踊りを見たことがないだろううけど田中泯がどんなダンサーかを人に説明するのはとても難しい。
1974年に個性的なダンス活動が始まった時から現在に至るまで田中泯は全世界を舞台に踊り続けている。
全編即興演奏のフリー・ジャズがあるように泯さんの踊りも即興だ。
踊る場所とそこに集まった人々との無言のやり取りでその日の踊りがきまる。
どんなダンスになるかは本人にも分からない。
名付けようのない踊りを踊る人だとしか言いようがないので、このドキュメンタリー・フィルムは多くの人に田中泯の踊りの一端にふれるためのとても貴重で最高の贈り物だ。
いい映画だから見てよではなく「すごい人がいるよ、この映画を見てご覧」としか言いようがない。
*ぼくが見た田中泯。
1977年、フリージャズ界の巨匠、パーカッショニストのミルフォード・グレイブスが来日した時に田中泯と共演した。
場所はフランス文化センターの庭園だったような気がする。
ミルフォードの演奏はビートを刻むドラミングではなく終始一貫して波動を生み出してそれを発信する。
そ〜いう演奏が一時間ほど続きその響きの中で田中泯が踊った。
というか演奏が始まって何分たっても田中泯が動いているとは思えないほどゆっくりとした動きで「え?これってダンスと言えるのか」だった。
ゆったり身体を動かす太極拳を超スローモーションで見ているようだ。
たしか小雨降る夏の夕方だった。
半円状に囲んだ観客たちもじ〜〜っと二人を見つめている。
そのうちに田中泯の体中からうっすらと湯気が立ち始めた。
激しい動きや運動ではなくユックリ滑らかに動くことがもっともエネルギーがいるということをその時確信した。
見た目には何も起こらないのにこれほどドキドキするサスペンスを感じたライブはない。
貴重な体験だった。
*2時間釘付けにされた映像。
約2年間にわたる田中泯のライブ活動をとても丁寧に記録した犬童監督のワザも凄い。
インタビュー場面もあるがこけおどかしの動きなど一切ない、薄っぺらいエンタテイメントもない自然体の静かな動きを追った映像を2時間退屈させずに見せるのは至難の業だ。
これほど「凄い人がいるよ」と人に勧めたくなる映画はない。
『名付けようのない踊り』のサイト中で見られる大泉洋との対談もとっても面白い。