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スヘルデの戦いのチーズマンのレビュー・感想・評価

スヘルデの戦い(2020年製作の映画)
3.7
この作品を観るまではスヘルデの戦いというのを知りませんでした。

まず、オランダとベルギーの境目で行われた「スヘルデの戦い」に至るまでのヨーロッパの戦線の移り変わりや、その場所、その目的、それらを的確に地図上のアニメーションで説明していくオープニングがとても良かったですね。

ナチスドイツに占領されたヨーロッパを解放するために、まずノルマンディー上陸作戦によって足掛かりを築いたのは良かったが、その後伸び切った各戦線に十分に物資を補給できずきに苦戦していた状況を解決するため、ベルギーのアントワープ港を解放するための重要な戦いだったそうです。

メインとなるのが、イギリス空軍の新米パイロット、ドイツ軍に従うオランダの兵士、地元の市役所で働いてるがレジスタンスと関わってしまう一般市民の女性、この3人の若者の視点から描かれる作品でした。

監督のマティス・ヴァン・ヘイニンゲン・Jrの作品はとても少ないですが『遊星からの物体Xファーストコンタクト』があります。
しかしちょっとそっちは観てないので分かりませんが、今作は要所要所でのドラマティックな盛り上げみたいなものは抑えられてい割と淡々と描かれていました。
なんだけど、なせが印象に残るシーンがいくつかある、そんな戦争映画でしたね。
どれも、それほどセリフが多くなくて人物の表情や場面の空気感で人物の複雑な心情を表現しているような場面でした。

物語も終盤になって3人の視点が交差するような場面でも、盛り上げるというよりはあえて抑えて描かれています。
名もなき誰かの視点は誰かの視点へとつながっていく、という波紋タイプの感慨を覚えました。
いや、誰かの視点、というか“視線”ですかね。今作は視線をとても意識して作られていたように思いますね。
いずれ忘れ去られて消えゆく戦争の小さな死も、ちゃんと誰かには視られていた。
その視線のバトンタッチが上手かったように思います。

まあでも、視線を描く、となるとそれは全体的な印象として地味になってしまうよな、とも思いました。

序盤は視点がバラバラなのでちょっと見にくい気もします。

オランダ映画としては歴代2番目に多い予算で作られた大作ということで、気合いは入っていて、ロケや美術や衣装をこらして作られた当時の空気感の再現や、戦闘シーンの迫力は十分あり、戦争映画としての見応えはありました。

戦いの舞台となった場所が海抜ゼロ以下の湿地帯ということで、遮蔽物もあまりなくビュンビン弾が飛んでくるので大変そうだと思いましたよ。

Netflixの4K作品ということで、映像はとてもきれいで細かくて、戦闘シーンでの土やチリが常に飛び散っている様子なんかはっきり見えてすごかったです。

メインの3人の若者の演技ももちろん良かったですが、それを演技面からサポートするような歳上の役者の存在感も素晴らしかったですね。
特に、イギリス新米パイロットの上司にあたる人物を演じているのがハリポタのドラコ役でお馴染みのトム・フェルトンで、彼の実年齢よりも上の役だと思うんですが、見事に演じていました。

あとナチスドイツの描かれ方は、物語として敵なのでもちろんそういう描き方はされていますが、その中でも戦線に派遣されているような個々の人物に対しては人間性を垣間見させるような描写を入れ込むバランスになっていました。
とくに、脚を無くし車椅子に乗った疲れ切ったナチス将校などはとても印象に残っています。
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