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リコリス・ピザのMALPASOのレビュー・感想・評価

リコリス・ピザ(2021年製作の映画)
4.1
映画『リコリス・ピザ』

製作・脚本・撮影・監督は奇才ポール・トーマス・アンダーソン。

これは何度も観なきゃいけない、いろいろ勉強になる映画。

タイトルは実在したレコード店。舞台裏をいろいろ調べると、現実とPTAの想像がごちゃまぜになっていて面白い!

舞台は1973年、LAサンフェルナンド・バレー。10歳年上のカメラ・アシスタント、アラナに一目惚れした高校生ゲイリー。友人のような関係から保護者のようになり、お互いを意識していく。
どこかの映画のような青春映画ではない。観客の共感を故意に集めるような描き方じゃないところがいい。イタリア映画にような年上女性の大人の指導があるわけでもない。童貞にノーブラの年上。これまで主人公が狂った映画が多かったPTAだけど、今回は割と真面。どちらかというといつもの口汚いキレ・キャラはアラナ。主人公のゲイリーは頭がよくて、役者をやりながら、ウェーターベッドを売るなどビジネス・マン高校生。

PTAの盟友、今は亡きフィリップ・シーモア・ホフマン。その息子クーパーが主役。ブルース・スプリングスティーンがEストリート・バンドの名優クラレンス・クレモンスの死後、彼の甥ジェイクをメンバーになったことを連想する。
もう1人の主演は、三姉妹バンド、ハイムの三女アラナ。姉妹役でエスティ、ダニエルも出演。さらに父モデルハイ、母ドナも父母役で出演。以前家族でカバー・バンドやっていたりエンタメ一家。

映画の舞台サンフェルナンド・バレーはPTAもハイムも生まれ育った場所。PTAの『マグノリア』『ブギーナイツ』もここが舞台。スタジオがあったりエンタメな街。ポルノ産業が盛んな場所らしい。戦後に郊外型の住宅地が開発された場所。ガレージのある一軒家で一見幸せそうな家庭が多そうだけど、80年代全米一離婚が多い地区だった。そんな見た目の華やかさや幸せの裏を描くのがPTA。
PTAはハイムのミュージック・ビデオを9作も監督している。アルバムにジャケットもPTAだったりする旧知の仲。ハイムが『ブギーナイツ』のファンだったことでPTAと知り合いMVを依頼したらしいけど、PTAはハイムのお母さんが先生をやっていた学校の生徒だったそう。タランティーノの映画館も登場する♪Summer Girlのビデオは大好き!PTAはフィオナ・アップルとも長年付き合ってた時期もありミュージシャンとも関係が深い。

アラナがイスラエルの格闘術「クラブマガ」を父に習ったという台詞があるが、ハイム家のお父さんはイスラエル出身の元サッカー選手。

主人公は真っ当で、彼らが出会う大人たちがイカれてる。どちらかというとこっちがPTAの映画の主人公になるべきキャラ。
共演の変なおじさんたちは、ブラッドリー・クーパー、トム・ウェイツ、ショーン・ペン。ブラッドリー・クーパーが演じるのは実在するハリウッドの伝説ジョン・ピーターズ。バーブラ・ストライサンドと交際して映画プロデューサーになった元美容家。この人暴力的でけっこう狂っていて、劇中で描かれたような人物。映画『スター誕生』のプロデューサーをブラッドリーが演じる裏ネタ。
ショーン・ペンは俳優ウィリアム・ホールデンがモデルとのこと。スピルバーグの娘に変な着物着せてる。

PTAが製作時に影響を受けて映画として『アメリカン・グラフィティ』とショーン・ペン主演の『初体験リッジモント・ハイ』をあげている。キャメロン・クロウ脚本の傑作『リッジモント・ハイ』に出てくるレコード店はリコリス・ピザ。ちょうどバーブラ・ストライサンドのポスターが大きく飾られている。
35ミリ・フィルム。PTAの撮影は、とにかく自然光の使い方が上手い。特にマジックアワーの光。最初のホットドッグ店のシーンなんて切り取って額に入れたい。

音楽は舞台となった時代のものにこだわらず新旧のロックが次々流れる。ど頭の学校のシーンに流れるニーナ・シモン。ミスマッチな選曲が素敵。ポールの♪Let Me Roll Itが流れるシーンも素敵。音楽使いは相変わらず上手い!

日本人のシーン賛否あるようだけど、アメリカ人から見たら今でもあんな感じでしょう。

『リッジモントハイ』と『アメグラ』観たくなった。ピーナッツ・バターサンド食いながら。

これにてアカデミー作品賞ノミーネート作品鑑賞終了。これはぜったい獲らない。最近の傾向とかから考えると『コーダ』かな。

以前、フジロックとメキシコのフェスで観たハイムのライブがめちゃ良かった。バンドが少なくなる中、ロックの歴史も継承している貴重な女子バンド。今年もフジロック で来日しないかな、しそうだな。
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