うべどうろ

リコリス・ピザのうべどうろのレビュー・感想・評価

リコリス・ピザ(2021年製作の映画)
3.2
僕は、現役の映画監督で「次作を心待ちにする監督」として、PTAはベスト10に入ると確信している。彼はその想像力を、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」のように原初的な信条から、「ザ・マスター」のような社会的な緊縛、そして「インヒアレント・ヴァイス」のようなエンタメ的な発散に、「パンチドランク・ラブ」のような疾走するラブストーリーまで、あまりに多岐にわたり、遺憾なく発揮してくれる。その鋭鋒たる演出力、脚本力、そして何より物事に対する視点そのものが、各作品を圧倒的な新しさと確固たる完成度で包み込む。どの作品を鑑賞するにあたっても、圧巻の一言であり、鑑賞後は「世界の見方が変わる」ような擬似的な洗礼を受ける印象がある。

しかし、、、。この作品はどうだろう。。。僕はPTAの作品で初めて、心に響かなかった。もちろん面白かったし、当時の空気感を絶妙に纏い、どうしようもない人間の臭みが漂いくる脚本と演出には脱帽するところもあるのだけれど、どうしても好きになれない。たとえて言うなれば、「ウディ・アレンに憧れてみました」「日本よ、これが現代の恋愛(日常)映画だ」と言わんばかりの、その視座の落ち着きようとでも言うべきだろうか。なんだか、勝手に、昨今の邦画に溢れかえる“日常的な恋愛映画”に対する冷笑に思えてならなかった。(褒め言葉ではない)

それでもなお、次作を期待せずにはいられないので、さすがはPTAなのではあるが。
うべどうろ

うべどうろ