Smoky

リコリス・ピザのSmokyのレビュー・感想・評価

リコリス・ピザ(2021年製作の映画)
4.1
『パンチドランク・ラブ』から20年、『ファントム・スレッド』から5年。恋愛ドラマの名作を生み出してきたPTAこと、ポール・トーマス・アンダーソン監督の新作。
 
恋愛ドラマの側面はありながらも、純粋と幼稚、計画と衝動、自己愛と他者愛との境目は曖昧であり、どちらも必要で、それを理解することが成長・成熟なのかも…と思った物語。
 
そして、PTAファンの自分として嬉しかったのは、今や賞レース級の大作も創る彼が最新作に選んだのが極めて私小説的な映画だったこと。今は亡き朋友フィリップ・シーモア・ホフマンの息子を主役に抜擢するだけでなく母親まで出演させ、同じく幼少の頃から家族ぐるみの付き合いをしていたハイム家の面々を全員登場させ(そのうち子供三姉妹はバンドを結成し世界的に有名にもなった)、自分が育ち監督のキャリアをスタートさせたサンフェルナンド・バレーを舞台にして1973年を忠実に再現したのは、もはや「人の金を集めて作ったホーム・ムービーだろ」とツッコミたくなる(笑)
 
さらには、ショーン・ペン、トム・ウェイツ、ブラッドリー・クーパー、ディカプリオの父親など、クセの強い俳優に実在のハリウッド有名人とエピソードや、『タクシー・ドライバー』や『アメリカン・グラフィティ』などの名作へのオマージュを挿入する手法は、PTA版の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』という言葉が相応しい。ちなみに、ブラッドリー・クーパー演じるジョン・ピーターズは、当時付き合ってたバーバラ・ストライサンドを出演させた『スター誕生』のプロデューサーであり、ブラッドリー・クーパー自身が、レディ・ガガと共演した『アリー/スター誕生』で監督&リメイクしているという「入れ子構造」にも全力でツッコむところだろう(笑)
 
フィクションとリアルで、スクリーンの表と裏で、さまざまな感情と考えが浮かんでは消える万華鏡のような素敵な映画だった。
 
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