【亡霊とアイデンティティ】
改めて、この「ゴッドファーザー Part III」を観て、当時より面白いし、より複雑な作品だったんだなと感じた。
この作品は、前の二つと比べて、公開当時の評価はいまいちだったように覚えている。
アンディ・ガルシアに重厚感が足りないなど色んな意見もあったように思うけれども、もしかしたら、今観る方が、よりノスタルジック感が増していて面白く感じるかもしれない。
公開当時は、10年も遡らずに実際に起きていたバチカンやイタリアの政財界とマフィアの癒着・腐敗を背景にした事件を物語として構築したせいで、実はリアルすぎて物語として楽しみづらかったこともあるように思うのだ。
むかし、僕のイタリア人の友人が、彼が働いていたアメリカのある投資銀行のイタリア某市の支店で1980年代に起きた出来事を話してくれたことがあった。
彼も上司だか先輩からだか聞いた話なので、目の当たりにしたわけではない。
当時、その支店にアメリカの本社から企業の買収事業を拡大するために派遣されていたアメリカ人オフィサーのデスクの上の回転式名刺ホルダーに、ある朝、マフィアからのメッセージが挟み込まれていたというのだ。
彼の手がけていた買収ディールは秘密保持が徹底されていて、同僚でさえ知らされていない案件で、佳境だったらしい。
そのメッセージには、その案件を中止するようにとの警告と、他に脅迫めいた内容、そして、ヤンキー・ゴー・ホームと書かれていたらしい。
彼は、即、米伊の上司に報告して、会社もディールを中止、彼も、帰国したとの事だった。
たとえ、80年代の話だとしても、僕は、ちょっと眉唾だと思って、そのイタリア人の友人に、普通、警察に相談するんじゃないのと尋ねたら、イタリアの警察はマフィアと繋がっていて、逆に火に油を注ぎかねないと説明していて、僕は、納得したわけではないが、”ふーん”と話を終わらす以外方法はなかった。
この話、嘘か本当かは別にして、こんな話がエピソードのように語られるイタリアは、先進国なのに結構怖い国だなと思った。
因みに、その投資銀行は、90年代や2000年代の再編で、もう存在していない。
この作品は、「Part II」から結構時間を置いて制作されたが、初めの30分から40分のパーティーを含めた場面が、前作からのつながりや因縁を説明してしまうほか、マイケルの置かれた現状も理解できて、さすがだななんて思わせられる。
この作品では、マイケルは多くの亡霊に悩まされる。
兄のフレドもだが、非合法組織やカジノ経営から脱却しようとしても、尚まとわりつくマフィアもそうだ。
祓っても祓っても、まとわりついてくる亡霊なのだ。
「神は貴方を許します。でも、貴方が、それを信じていない」
亡霊に悩まされる原因は、本当は、これではないのか。
亡霊は自分で祓わないとならないのか。
信じられるのは、シシリアへの郷愁だけなのか。
それは、ヴィトーで終わりだったのではないのか。
これも亡霊ではないのか。
ある意味、アイデンティティも亡霊ではないのか。
もしかしたら、自立してオペラ歌手として成功したアンソニーを見て、本来なら自分もあのように自由で自立した生涯を送りたかったと考えてのではないだろうか。そんな心のうちも亡霊のようなものかもしれない。
奏でられる重厚な音楽とオペラの場面と同時に裏で進行する争いの場面も、よく見られる銃撃や殺害場面と異なり、非常に見応えがある。
この「Part III」も実は、ヴィトーとマイケルの生涯の対比だったように思う。
ただ、ヴィトーの闘った亡霊と、マイケルの闘った亡霊は異なるものだ。
そして、アイデンティティも異なるものだったのではないのか。
改めて観て、当時より考えさせられるところが多かったように思った。
レストア版を映画館で観ることが出来て良かった。